TACHIKI REPORT

立木レポート (了)

イ 〇二八
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二八)

秘匿任務第三九九六号継続報告(一二)

潜入二五日目から二六日目未明。
以降の報告をもって上記二任務の最終調査報告とする。内容の重要性・必要とされるであろう機密性を鑑み、次の空白行から先の復号鍵を 九ナロ五ヘム四二ギ に変更する。
(編者註:この行と次の行の間で暗号の復号コードが変更されていた。一送信中に復号コードが変わるという事例は稀である。しかし使われている暗号機は同じであり既にその暗号生成法則は明らかなので、時間はかかったが解読は可能であった。立木もそのことは承知の上で、気休めと万一の場合の時間稼ぎを念頭に置いてコードを変更したのであろう)

                                                         

前回報告を送信後、ただちに大伴市郊外の黒潮邸に向かう。庭に二名、屋内に二名、計四名の私服警備員が配置されており、これらに察知されず対象甲群筆頭“黒潮豪蔵”に接触を試みるには時間的猶予がないと判断。

The_skull_man_10_11avi_001679179 やむをえず有形力を行使しこれらを制圧する。(編者註:有形力という語句は元来「物理的な力」という意味に過ぎないのだが、法律上の用語として「暴行」の定義が「人の身体に向けられた有形力の行使」とされており、このため警察関係者などが暴力を用いて犯罪者を制圧する際などに「有形力を行使し制圧」などといった言い回しが多用される。これは「暴力」よりも「有形力」のほうが、さも適法行為であったかのような印象を与えるからであると思われる。この報告書における立木の言い回しも、それに類するものであろう。なお当時黒潮邸に配置されていた私服警備員は元警官が二名・国軍憲兵隊出身者が一名・柔道の国体選手が一名であったことが後の調査で明らかになっている。おそらく不意打ちだったとはいえ、彼らをこともなげに倒す立木の実力には恐るべきものがある)
その後速やかに黒潮豪蔵と接触。単刀直入に事情の聴取を申し入れたところ、黒潮は特に抵抗もなくこれに応じた。これは主観であるが、黒潮の顔相には一種の諦念らしきものが見て取れた。黒潮の案内に従い、邸内書斎に入る。書斎には隠し金庫が設置されており、

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そこには“ガ號計画”に関する機密書類、および計画初期にやりとりされていたと思われる書簡、覚書の類が未整理の状態で保管されていた。

これらを閲覧しつつ黒潮に対し事情の聴取を実施した。以下、その要点を踏まえての報告総括とする。

ガ號計画は、先の大戦末期における国軍と神楽製薬の共同事業として行われた“神楽遺跡”発掘作業にその端緒を見いだすことが出来る。これは当時の国軍関係者には周知の事実である。しかし発掘が完了する前に終戦をむかえ、国軍は混乱のうちにその計画を放棄することになる。

残された神楽製薬は単独で発掘作業を継続した。その陣頭指揮を執っていたのが当時の社長、神楽辰之である。神楽辰之は、多くの社員が採算性などを理由に反発していたにも関わらず強硬に発掘を推進したという。その際、当時の神楽製薬筆頭株主であった黒潮豪蔵が、発掘反対派に対し執拗な根回しを行っていたらしい。

かくして“神楽遺跡”は、最終的に二体がほぼ原型を留めた状態で発掘された。
    
The_skull_man_10_11avi_002040707_b The_skull_man_10_11avi_002040707_a  うちひとつは人間の頭蓋骨に類似した外観を呈するもの(以下「頭部体」と記す)で、もうひとつは大きな翼を持つ動物を形象したかのような外観を呈するもの(以下「有翼体」と記す)であった。。

なお当時の写真資料を見たところ、遺跡頭部体の外観は“骸骨男”が被っている覆面とまったく同一であり、有翼体は白鈴會の“本尊”と同一のものであることを付け加えておく。

黒潮によれば、当時の神楽辰之は何かに取り憑かれたかのような執念で遺跡の研究に没頭していたらしい。黒潮は惜しみなく辰之に研究資金を与え、遺跡の解析は容易ではなかったものの、少しずつ着実に前進していた。このとき黒潮が辰之に資金を提供した理由であるが、遺跡の発掘段階で既にこれらが未知の力場を周囲に発生させていることがわかっていたらしい。それは現代の物理学・化学では説明不可能なもので、黒潮によると“力場”という用語すらその実妥当ではなく、ただその状態を言い表す術語が存在しないための仮称であったという。黒潮はその未知なる力を解析し、いずれ独占的利用が叶えば実業界において圧倒的な優位を獲得できると考え、辰之の研究を支援していたのである。

ところが研究が進むにつれ、事態は黒潮の思惑とは違った方向に動き出す。辰之は遺跡研究の過程で、これらが人体を遺伝子的水準で変容させるという特異現象を見いだしたのだ。

その変容は人の外観を変え、身体能力を飛躍的に向上させた。ただし遺跡の持つ力が人体に対してどのような作用機序でこの現象を引き起こしているのかは、妄執とも言える辰之の昼夜を問わぬ研究をもってしてもわからずじまいで、ただひとつわかったことは、この現象が発生するためには媒介として神楽辰之本人の存在が必要である、ということのみであった。

この事態を受け、黒潮豪蔵と神楽辰之の間で“神楽遺跡”をどう処遇するかについて、大きな方針の違いが生まれた。黒潮は先述したようにこの未知の力を実業に利用しようと思っており、この特異現象はそれを具体化する嚆矢という認識であった。しかし神楽辰之は、この遺跡の力を科学的手法によって完全に究明することは不可能と判断し、それを畏怖しつつ信仰する道を選んだのである。当時の彼の思想は、遺跡の力を受けることによって人間は新たな段階に進化することができ、より多くの人間がそうなることによって人類全体が幸福になれる、というものであったらしい。

かくしてここに、白鈴會の礎となる宗教団体が生まれた。

The_skull_man_10_11avi_002109526 神楽辰之は“番場壮吉”なる変名を名乗り、宗教家としての活動を開始する。しかし元来科学者である辰之は、最終的に完全な究明は期待できないと思いつつも遺跡の研究をやめることはできず、それは同時に研究資金を提供している黒潮豪蔵に向けての義理立てにもなり得た。ゆえに、神楽製薬社長としての顔も持ち続けることになる。そしてこの継続された研究こそが、“ガ號計画”そのものである。

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当時の資料によると“ガ號計画”は、「生理学的・薬学的な手法による人体の強化、およびその統御」を目的としており、ここに国軍が関わっていた頃の影響を見ることが出来る。ただ国軍側はおそらくこれを、強壮剤や戦意高揚剤(編者註:民生的な用語では、これらは覚醒剤に類似する物である。事実先の大戦での国軍や南亜戦争での米軍などはこれらを主に前線部隊において使用していた)の延長線上にあるものとしか認識していなかったのであろう。然るに終戦後の混乱期を過ぎても、軍首脳部がこの計画にふたたび関心を持つことはなかったのではないかと推測する。

反して黒潮は、早期段階においてこの遺跡の力が大きな財を成す源になり得ると踏み、神楽辰之に資金援助を続けていたわけである。ところが神楽辰之は当時、研究成果の核心たる部分に関しては黒潮に対し頑としてその開示を拒み続けた。実業家である黒潮豪蔵と、純粋な研究者でありながらさらに純粋な宗教家の顔をも持つようになってしまった神楽辰之。この両者の溝は次第に拡がっていったようで、その様子は黒潮が提示した当時の書簡によっても推し量ることができる。

この状況を受け、黒潮はひとつの決断を下す。警察署副署長であった埴輪儀助に、研究資料の強奪を指示したのである。当時の埴輪は黒潮の後ろ盾を得たことにより、警察組織内において日の出の勢いで出世街道を邁進していた。それゆえ埴輪にとって黒潮の命令は絶対であり、むしろ率先して汚れ仕事を引き受けていたきらいすらある。

しかしここでまた黒潮の想定を覆す状況が発生する。黒潮の指示を拡大解釈した埴輪が、研究資料を強奪した上に神楽親子を殺害、さらに証拠隠滅のため神楽辰之の自宅兼研究室に火を放つという愚行を犯したのである。

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事後の現場検証および検屍の結果、焼け跡からは神楽辰之とその息子神楽辰男と思われる死体が発見された。しかし当時の法医学・鑑定技術では、この二遺体が間違いなく神楽親子であるかの確定まではできなかった。なお辰之の妻沙羅は、この時期第二子の出産準備のため同じ神楽村内にある実家に帰省中であったため、難を逃れている。

この放火事件にはもうひとつ重要な側面がある。徹底的な現場検証を行ったにも関わらず、そこから“神楽遺跡”の頭部体を発見することができなかったのだ。

神楽遺跡の頭部体は、当初白鈴會の前身たる宗教団体で有翼体と同じように“本尊”として扱われていた。

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ところがある時期を境に“本尊”は有翼体のみになり、この頭部体は人目に触れぬよう神楽辰之が隠し持つようになってしまう。黒潮によると、頭部体の研究だけは部下を交えず神楽辰之が単独で行っている様子だった、とのことである。当然この頭部体は辰之の自宅兼研究室にあるものと思われていた。しかし火災の跡をどれほど念入りに調べ抜いてもそれらしき残骸は見いだせず、黒潮らは「遺跡の頭部体は火災の熱で燃え崩れた」と結論せざるを得なかったのである。

だが、それについて黒潮に対しさらに聴取したところ、黒潮個人は別の可能性を想定しているようであった。曰く、「何者かが裏で動いて遺跡の頭部体を持ち去った。その際神楽の息子、辰之をも救出されたかもしれない」とのことである。

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この黒潮の推論について信憑性を評価する術はない。然るにこれに関する判断は本部に一任する。しかし、潜入調査開始からここまでの“骸骨男”の動向を見る限り、その超人的な戦闘能力等を合理的に説明するには、彼の怪人が“神楽遺跡”の頭部体が持つ未知の力を利用しているという仮定は非常に収まりがよく感じられる。これはあくまで個人的な所感として付記しておく。

上記のような経緯で、“ガ號計画”の中心人物は神楽辰之から黒潮豪蔵へと移行したわけである。黒潮は遺跡研究の隠れ蓑として辰之が創設した宗教団体を存続・活用することをも視野に入れ、辰之とともに教団の実質的な責任者であった神楽沙羅と結婚。同時に宗教団体は“白鈴會”として改組を果たす。改組後の白鈴會は沙羅の精力的な活動と黒潮の資金面における後押しが奏功し、着実に信者数を増やしていった。

転じて“ガ號計画”に関しても、まず黒潮は神楽製薬を大伴製薬に改組し、事業を拡大していく中で遺跡の研究に巨額の研究費を投じ、その利用方法を模索していく。しかしこの研究は当初、困難の連続であったという。生体の遺伝子的変容現象は再現性に乏しく、同一条件で複数回試行した実験においてもその結果は不安定であったことが当時の資料から読み取れる。なおこの頃から、遺伝子的変容を示した検体をこの計画名からとって“ガ號”と呼称するようになっていたようである。
やがて資金難に直面した黒潮に対しまずは資産家であった沙羅の実父が援助を行い、次いでこの計画をどこからともなく嗅ぎ付けたブレインギア社極東支部が資金援助を前提とした技術提携を申し入れてきた。ここに大伴製薬とブレインギア社の提携関係が生まれ、“ガ號計画”はこの二社による共同研究という名目のもと、本格的な軌道に乗せられた。当時の書類によると、ブレインギア社側では“ガ號計画”を“Project GRO”と呼称していたようである。しかしこれらの資料からは、黒潮がブレインギア社に開示する研究の進捗状況を意図的に改竄し、なんとかして技術を独占しようとしていた跡が伺える。

上述のような大伴製薬側の態度に不信感を抱いたブレインギア社は、黒潮にガ號実験体の提出を迫った。ガ號研究は依然として不安定な状態であったが、ここで黒潮はやむなく比較的良好な成果が得られた双子の実験体をブレインギア社に提出した。これら二体はブレインギア社でひととおりの検査・実験を行った後、その能力を測るため試験的に南亜戦争の前線に投入されている。二体は一定の成果を残したものの、戦局の混乱によりブレインギア社はこれらの所在を見失ってしまう。以後この二体についてブレインギア社では登録番号抹消実験体、すなわち“ロストナンバー”と呼称するようになる。

The_skull_man_10_11avi_001963338この事態は黒潮にとって痛し痒しと言うべきもので、貴重な実験体を失いはしたものの、以降これが実験体の提出を拒み閉鎖的な状況で独自に研究を進めるための口実にもなった。

ほぼ時を同じくして、遺跡研究に大きな前進をもたらす出来事が起きる。神楽辰之死亡時に沙羅が身ごもっていた女児“黒潮真耶”が成長し、巫女として白鈴會の象徴的存在に据えられたのだ。それを契機にしたかの如く、白鈴會信者の中から多数の“ガ號”が発生した。黒潮子飼いの研究者たちはここに因果関係を見いだし、黒潮真耶こそが遺跡の力を人体に波及させる媒介であると推定。以後“ガ號計画”は人体強化の一手法として、急速に具体性を帯びたものになってゆく。実験の再現性が向上したことにより研究も進み、ガ號を音波によって制御する可能性など、いくつかの新事実が明らかにされたのもこの時期である。

この時点で白鈴會は黒潮の思惑通り“神楽遺跡”を一般の耳目から遠ざける格好の目くらましになっており、なおかつ大伴市を中心に多くの信者を獲得していた。教団の理事である黒潮沙羅は神楽辰之の妻であった頃から遺跡の持つ力に心酔しており、それを具現化しようとする夫の計画にも協力的であった。それゆえ、大伴製薬内にある黒潮直属の研究部署と白鈴會幹部は密に連携し、両者の間で信者の多くが被験体として秘密裏にやりとりされていたのである。

その後黒潮は軍需産業の新たな一分野を築き、かつそれを独占することを目標に設定し、“ガ號計画”を強力に推進してゆく。同時に神楽遺跡の研究過程で得られた技術的副産物は時間差をともなって大伴製薬とその関連企業を潤し、黒潮は余勢を駆って現在の大伴コンツェルンを形成してゆくのである。その際政・官への働きかけも抜かりなく、大伴コンツェルン躍進期に黒潮豪蔵と近しい関係にあった代議士“霧野竜二”および大蔵次官“兵藤靖行”は、この頃から現在に至るまで“ガ號計画”の秘密と、それが将来的にもたらすであろう莫大な利益を黒潮と共有する間柄になっている。すなわちこれこそが、任務第三八九七号で言うところの「大伴市を実質支配する非公然組織」の萌芽であり、現在においてはその基幹である。

同任務において言及されていた「大伴市を実質支配する非公然組織による反体制的動向」については、黒潮からの聴取をもとにし、以下のように考察する。
黒潮はあくまで大戦後弱体化した我が国の経済基盤を再建することに主眼を置いており、そのための有力な手段として軍需産業の活性化を推進していたものと思われる。“ガ號計画”もその一環であり、かつ主軸であるといえる。
実業家としての黒潮の信念は内政・外交両面において現体制に変革を要求するものではあるが、それを武力政変によって成さしめようとしていた様子はない。黒潮が武力政変を企図するものと仮定した場合、今回調査期間中における陸軍少佐“石動寛治”との接触の態様に矛盾が生じる。ゆえに黒潮の企図するところは“ガ號計画”ならびに大伴コンツェルン内におけるいくつかの極秘兵器開発計画を、中央政府に変革を迫る圧力として利用することであったと思われる。したがってその圧力を失わないために、技術独占を画策していたと考えることはできる。
ただし長い年月によって醸成されたこの支配体系も、黒潮の秘書である“神代正樹”と大伴製薬専務“船越英明”両名の首謀による経営権奪取が成された現時点において、その本質は変化していると見るべきであろう。また、血がつながっていないといえども自分の娘である“黒潮真耶”を必須条件としている時点で、ガ號計画が黒潮にとって逡巡の源となり続けていたことも付け加えておく。この逡巡は黒潮がコンツェルンの経営権を奪われた遠因にもなっている可能性がある。

なお南亜戦争終結以降これまで、大伴コンツェルンの動向を黙認していたブレインギア社がなぜ、今の時点でにわかに極東総支配人“アルカード・ヴァン・ヴォグート”および“サークス”を差し向けたのか、その理由について黒潮豪蔵は量りかねている様子であった。しかしこれは前回報告に記した“サークス”と“アルカード・ヴァン・ヴォグート”の間で交わされた通信内容から、“骸骨男”すなわち“神楽遺跡の頭部体”を確保することが目的であったと推定できる。

以上を秘匿任務第三八九七号 および 秘匿任務第三九九六号 の最終調査報告とする。

追伸

大伴市脱出の途上にて大規模な市街戦を目撃。
一方は明白に、陸軍少佐“石動寛治”が指揮する部隊であった。
歩兵と戦闘車両および特科による混成部隊である。

The_skull_man_12_13avi_001996454 他方はこれまでに見たことのない未知の兵器で、複数の脚によって移動する戦闘車両であった。                                                                        

                                                                      

                                                                             機体に記された商標から、これらはブレインギア社が所有する新兵器と断定する。

The_skull_man_12_13avi_002010593 The_skull_man_12_13avi_001993201

両者の戦力差は圧倒的で、ブレインギア社側は二ないし三の戦闘車両で石動の部隊を次々と殲滅していった。その際ブレインギア社側の損害は皆無であった。
この戦闘車両の主武装は光学兵器らしきものであるが、その出力は常識をはるかに超越するもので、石動の部隊が運用していた装甲車両を容易に両断するという恐るべき物であった。

The_skull_man_12_13avi_002030030 これにより石動の部隊は程なく全滅し、武力政変は失敗に終わった。上記は、本部では既に想定されている事態かと思われるが、念のため追記しておく。
(編者註:ここに見られる追記は、立木による、上位者に向けられた“最後の皮肉”であろう。資料 イ 〇二五 を再読せよ。立木の上位者は石動のクーデターが失敗に終わることを事前に察知していたわけである。しかもそれがブレインギア社の介入によって潰えることをも知っていた節がある。立木が市街戦の光景を見、同様に推測したであろうことは想像に難くない。なにしろブレインギア社側は自社の兵器に、大胆にもロゴマークを付けたままの状態で交戦していたのである。仮にも主権国家であるこの国において上記のような行状がまかり通ってしまうという現実は、ある意味屈辱的とも言えるのではないだろうか。立木にそこまでの憤りがあったかどうかは定かではないが、すべてを知っていながらそれを黙認していた上位者に対する、立木の冷笑とも取れる追記である)

今回の報告は以上とし、本通信の発信をもって全任務を完遂したものとする。

以上が大伴市における諜報活動の概要である。この資料と当時の新聞報道等をもとに、当時大伴市でなにが起きていたのか、その全体像を各々で構築してもらいたい。かかる大局観こそ、各々の近視眼的傾向を改善する良薬であると確信するものである。

なお後日我々の調査および警察当局から入手した情報等によって、当時の立木の調査対象に関するいくつかの事実が明らかになっているのでここに記載する。参考にされたい。

長きにわたり大伴コンツェルンの頂点に君臨していた“黒潮豪蔵”は、その屍体が建設中の大伴タワー最上階・展望ホールで発見された。左胸部を鋭利な物体で刺突されたことが直接的死因である。

その妻、“黒潮沙羅”も同じく、大伴タワー最上階・展望ホールで屍体が発見された。左胸部に銃創があり、三八口径弾丸が心臓を貫通したことによる即死状態であったと思われる。

同展望ホールでは他にも、大伴製薬研究員数名の屍体が確認されている。いずれも黒潮直属の研究室でガ號計画に従事していた者たちであった。

大伴タワー最上階エレベーター付近では、大伴製薬専務“船越英明”の屍体が発見された。なお同現場で、宗教団体“白鈴會”幹部数名の屍体も発見されている。

陸軍少佐“石動寛治”は、大伴市公会堂入口前にてその屍体が発見された。なお石動の部隊はことごとく全滅しており、クーデター参加者中、生存者は皆無であった。

大伴製薬秘書室長“神代正樹”、白鈴會教祖“黒潮真耶”の両名は、今回の事件に深く関与していることは立木の調査報告からも明白なのだが、ともに行方不明となっており屍体は発見されていない。

同じく立木の調査対象であった“御子神隼人”も行方不明となっているが、彼の情報源としての価値は先述の二名と比較した場合あまりにも低く、これを考慮する必要はないであろう。

なお立木の上位者が中途で追加した任務において重要視されていた神父“神崎芳生”は、彼の住居でもあった“大伴聖マリア教会”で死亡していた。教会の建物自体が激しく破壊されており、神崎の死因は不明である。また、なぜ教会がそのような破壊の対象となったのかも不明である。この事実に関しては各々の熟考を求めたい。

また、終局における立木の最重要調査対象であった“神楽遺跡”については、我々も徹底的な追跡調査を行った。にも関わらず、これに関する後日情報は一切得ることができなかった。いまもって調査は継続中であるが、その所在の究明は困難を極めるものと思われる。これについても、各々の独創的かつ包括的な着眼点による新たな端緒を強く求めるものである。

最後に、立木恭一郎によって書かれた“未完の手紙”を転載する。
これは立木の表向きの職場兼住居である“立木興信所”で発見された、書きかけの手紙である。既知の事実だが、立木恭一郎は大伴クーデター事件の翌年九月中旬に死亡している。死因は突発的な心臓麻痺であった。立木は手紙を書いている途中、興信所の近くを散歩していたものと思われる。その散歩中に、交差点の中央で絶命したのである。
この手紙が容易に入手できた経緯として、当時の興信所の従業員二名が立木の死亡当日から突如行方不明となり、無人の事務所への侵入は極めて容易であったという事実をここに記しておく。なお従業員のうち一名の氏名は“新條剛”であり、これは立木が大伴での諜報活動中に工作対象としていた元警官のことである。新條は大伴でのクーデター発生の直前に退職願を提出しており、それは受理されていた。もう一名の従業員については女性であるということが周辺調査によって判明しているが、その姓名等は不明である。
加えて、立木の大伴における活動中その調査対象であった“間宮霧子”も時を同じくして行方不明になっていることを付記しておく。当時間宮霧子は大伴市内の定食屋“みなかみ”に住み込みで勤務しており、同月には私生児を出産したばかりであった。この私生児の父親が何者であるかは不明である。なおその私生児も、この時間宮とともに行方不明となっている。

以下に掲載する“未完の手紙”が、各々にとって何らかのヒントになり得ることを願う。

                                                  

ロ 特
ミツコへ

 しばらく慌ただしくしていて、手紙を書くことができなくてすまなかった。
 前回の手紙を出した後、ほどなくお前と一平のかたきはとった。

The_skull_man_12_13avi_000917042 また、そちらに行きそびれてしまったよ。また生き残ってしまった。強がりを言うわけでもなく、別に相討ちでも構わないと私は思っていたんだがね。なにぶん、相手の腕が悪すぎた。昔から人を陥れて自分の保身に走るようなことばかりしていた輩だから、当然と言えば当然なんだが。ともあれ、これでやっと肩の荷が下りた気分だ。と、思っていたんだが、実はそうでもないんだよ。
 大伴で知り合った若い刑事ときれいなお嬢さんが、この騒ぎのせいで行き場を失ってしまった。それで仕方なく、私の事務所で面倒を見ることにした。

The_skull_man_12_13avi_002540665 The_skull_man_12_13avi_002544836 若い刑事のほうはいまひとつ飲み込みが悪くて、仕事を教えるのにも一苦労している。しかし根はいい男だよ。
 お嬢さんのほうは、かわいそうに天涯孤独の身の上とのことだった。この子は仕事の覚えも早く、おそらくなにをやらせてもすぐに上達するんだろうが、なぜか本人が「私はお茶汲みと経理のお仕事だけで十分です」と申し出ているので、そのようにしてもらっている。

 そんなわけで、やっと念願の自営業に専念できるようになったんだが、若い連中の面倒もみなけりゃならんし、結局のところ貧乏暇なしという体たらくに変わりはない。しかし、日々の暮らしに張り合いがあるのはいいことだ。おまえと一平には申し訳なく思うが、もう少し浮き世を楽しませてもらっても構わないだろうか。

ともあれ、あの事件からおよそ九ヶ月が過ぎた。今年も去年にまして残暑が厳しい。いや、これは私が歳をとって、暑さが堪えるようになったせいかもしれないがね。

 時の流れとは冷酷なものだ。あのとき大伴市に端を発したクーデター未遂事件は、この国をさらに大きな災いの渦中へと引き込む結果となった。いま、世界は確実に危険な方向へと向かい始めている。

The_skull_man_12_13avi_002524607 The_skull_man_12_13avi_002530196 大伴市での惨劇も、真相はすべて闇の中へと葬り去られた。いまとなっては、真実を知るものは少ない。生き残った者たちも、自らその口を開くことはないだろう。

 しかし、大伴から連れ帰ったお嬢さんが、私にだけ、とても悲しい話を聞かせてくれた。若い神父が、愛するもののために命をかけて戦い、志半ばで死んでいったらしい。その神父がなぜ戦わなければならなかったのか、そのわけについても彼女は話してくれたんだが、ここに書くと長くなりそうなので、おまえには私がそちらにいったときに直接話すとしよう。ところで大伴にいた頃お前に宛てて出した手紙の中によく、面白い若者の話を書いていたと思う。その若者だが、名を御子神隼人という。彼もまた、大伴の惨劇の中、行方がわからなくなってしまった。

The_skull_man_12_13avi_002565190 その後、御子神隼人の消息は杳として知れない。もしかしたら、御子神隼人が神楽辰男であったのか……そんな荒唐無稽な想像が、脳裏をよぎる。

 閉鎖的都市大伴で人知れず繰りひろげられたふたりの若者の戦いは、後の歴史にどんな
(編者註:立木の手紙は、ここで終わっている。ここに書かれている“ふたりの若者”が誰を指しているのかは不明である)

                                                        

資料「大伴市における諜報活動の概要」 了

                                                  

本資料の複写は、部分・全体によらずこれを禁じる

                                                         

                                                              

    

                                                             

                                                                                                                    

立木レポート (三)

イ 〇二一
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二一)

秘匿任務第三九九六号継続報告(六)

潜入二三日目。

午前、以前から工作を行っていた大伴製薬本社所属研究員と接触。工作対象は既に数回にわたりこちらが供した金品を受け取っており、協力者として利用できる水準に達しているものと判断した。
今回の聴取において対象甲群“神代正樹”直轄の研究室が、研究機材の移設作業にとりかかっているとの情報を得た。移設先は建設中の“大伴タワー”最上階とのこと

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なお移設作業の開始と前後し、白鈴會幹部らしき数人の男たちが神代の管理する研究室を頻繁に出入りするようになったとの情報も得られた。協力者の話によると、これまでも白鈴會関係者はしばしば研究室に出入りしており、時には幹部だけではなく一般信者をともなって入室することもあったという。

白鈴會の理事が黒潮豪蔵の妻であるという相関を差し引いて考慮しても、これは不自然と言わざるを得ない。機密性の高い製薬会社の研究室に部外者、しかも時として一般信者までもが入室していたという事実は、彼らが秘密を共有していた証左と考えるべきであろう。
大伴製薬ひいては対象甲群が守るべき秘密とは、彼らが独自に開発を進めている新兵器がその筆頭である。
対し、白鈴會が最優先で守るべき秘密とはなにか。それはおそらく“本尊”であろう。
継続報告(一二)に記したように、白鈴會は“本尊”については非公開を貫いている。一般信者が直接“本尊”を目にする機会は、原則的には教祖“黒潮真耶”によって施される儀式の際に一度限りとされている。

新興宗教の“本尊”が兵器開発に関わっているとは、常識的には考え難い。しかし追加秘匿任務第三九九六号実施要項における 「ガ號計画」と「神楽遺跡」の関連調査 という部分はこれを示唆しており、加えてこれまでに調べた事実を抽象すると現時点ではそのように推測する他はない。急ぎ“本尊”の詳細調査の要ありと認めるものである。
(編者註:ここに至り、立木は上位者から下された追加任務が妥当なものであったと認めた節がある。つまり、神楽遺跡と新兵器開発計画の関連性を自らの調査によって実感したということである)

午後、上記方針に従い白鈴會内部の協力者と接触を図る。その際先日の“如月奈美”殺害事件の現場周辺で“骸骨男”を目撃したとの情報を得た。これを契機とし、本任務の関連事案として前回報告に記した“如月奈美”殺害事件に関し調査を行いたい。現状においては優先度の低い事案かもしれないが、最優先任務に関わる可能性はあると判断する。
その理由だが、まず端的に述べると潜入調査開始からこれまでの間に白鈴會信者が死にすぎている。大伴市における白鈴會信者の割合を考慮しても、これは多すぎる数である。事実対象甲群が造反者とみなし抹殺したと思われる一三名を除くと、“骸骨男”の犠牲者はすべて白鈴會信者である。
前回報告で記したように、“如月奈美”殺害事件の犯人は警察発表では対象丙群“御子神隼人”とされている。しかしこれはいままでの経緯およびこちらが観察した御子神の人物像を前提にした場合、あまりにも唐突かつ不自然であると言わざるを得ない。先述の目撃情報と併せ考えると、今回の殺害も“骸骨男”の手によるものと考えたほうがまだしも自然である。
以上複数の要素を鑑みると、この事案にはいくつかの重要な示唆が含まれていると思われる。まずは警察当局より先に“御子神隼人”との接触を図り、情報を得たい。

夕刻、御子神の足跡をたどるべく滞在していた大伴製薬旧社宅周辺を調査。その際大伴警察捜査一課刑事“新條剛”と遭遇。新條はピッキング用具を用いて御子神宅の解錠を試みようとしていた。

The_skull_man_10_11avi_000280989 新條に対しこちらが行為を見咎めている旨を示唆すると、彼は解錠をあきらめこちらの身分を尋ねてきた。表向きの身分を明かしつつ御子神が手配されるに至った経緯について聴取したところ、事件の目撃者は対象甲群 大伴警察署長“埴輪儀助”のみであるとのこと。埴輪が対象甲群における上位者の傀儡であることを考慮すると、やはり御子神が犯人であるという当局発表は極めて疑わしいと言わざるを得ない。
新條が埴輪をはじめとする警察上層部に対しよい感情を持っていないことは既にわかっていたので、上述の疑念について結論部分のみを新條に告げ、当方の協力者になってほしいとの意を伝えたところ、新條は逡巡しつつその場を立ち去った。
なおその後こちらはその場に留まり、御子神の情報を得るべくピッキングによって居室の扉を解錠し侵入。室内の調査を実施したが、有効な手がかりは得られなかった。
(編者註:ここにまた、立木のしたたかさを見ることができる。立木は新條のピッキング行為を制止しておきながら、彼がその場を離れた後に自分はぬけぬけとそれをやってのけている。まさに老獪と言うべきで、これもまた一流の諜報員が持つべき資質のひとつである)
今回の報告は以上とする。

イ 〇二二
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二二)

秘匿任務第三九九六号継続報告(七)

潜入二四日目。

午後、白鈴會の古参信者および五〇歳以上の旧神楽村出身者数名に対し聞き込みを実施。白鈴會の“本尊”に関する情報を聴取した。
聴取内容を総合すると、“本尊”は白鈴會の教義上では「黄泉の国から来迎したもの」とされているが、その実態はダム湖に沈む前の旧神楽村で発掘された遺跡であるという。白鈴會の創始者である“番場宗吉”すなわち“神楽辰之”が掘り出された遺跡を“本尊”とし、現在の白鈴會につながる新興宗教をその時期に立ち上げたという顛末であったらしい。この聴取内容はここまでの調査報告における推測と一致する。
さらに聴取を進めたところ、“本尊”には“神の力”が宿っており、現在その力を引き出せるものは白鈴會の教祖“黒潮真耶”ただひとり、とのことであった。しかしその“神の力”が具体的にどのようなものかと尋ねると、返答はとたんに宗教的・超科学的な表現になり、情報としての有用性が認められないものとなってしまう。聴取ではこれ以上を望むべくもなく、やはり早急に“本尊”に対する物理的な直接調査を行う必要があると思われる。

今回の報告は以上とする。

イ 〇二三
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二三)

秘匿任務第三九九六号継続報告(八)

潜入二五日目。

午後、ブレインギア社ヴォグートの動向を観察。目立った動きはない。
なおブレインギア社私設部隊全般に関する既知の資料を受領した。構成人数・部隊章等から判断し、継続報告(一九)にて報告した部隊は ブレインギア社 先進兵装戦術実験隊 通称“サークス” に該当するものと思われる。


The_skull_man_10_11avi_000156823 The_skull_man_10_11avi_000244494 この部隊の大伴における具体的な行動目的はいまだ不明であるが、現在のところヴォグートと同じホテルに滞在している模様。夜、対象甲群“神代正樹”の動向を観察。依然自室には帰宅せず、当方と同じホテルに滞在中。
神代、深夜に外出。これを尾行したところ、ホテル近くの路上にて対象甲群“船越英明”と接触。

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見通しのよい路上での接触だったため接近できず、従って具体的な会話内容は把握できなかった。
しかしこれまでの経緯を考慮した場合、この両名は大伴製薬の経営権奪取に関する密談を行っていたと見るのが妥当であろう。なお密談は数分で終了し解散した。

その後船越は放置し神代の尾行を継続。神代は一旦ホテルに戻り、ホテル駐車場から自家用車にて再度外出し大伴市郊外に向かう。神代の車両が路上に停車した数分後、新たに別の自家用車が接近し神代の車両に対して横付けの形で停車した。

後に現れた車両の後部座席に対象丙群 陸軍少佐“石動寛治”を確認。

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両名は互いに車両の窓を半分程度降ろし会話をしていたようであるが、船越との密談時同様見通しのよい路上であったため接近は困難で、具体的な会話内容については聞き取れず。

石動の動向に関しては潜入調査開始初期に対象甲群“黒潮豪蔵”に対し儀礼的な訪問を行った他にはこれまで特筆すべきものはないと認識していたが、その様子から見て神代との密会はこれが初めてではないと思われる。
石動が大伴市を訪れる目的として最もあり得べきものは、軍内部での地位向上を図るため黒潮豪蔵の後ろ盾を得ることであろう。しかし現状において神代と船越は黒潮から支配権を奪い取らんと画策しており、石動の行動はその情勢を把握した上でのものと見るのが妥当である。対象甲群の支配構造が変容しつつある今、石動の動向にも注意を払う必要が生じたと判断する。

今回の報告は以上とする。

イ 〇二四
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二四)

秘匿任務第三九九六号継続報告(九)

潜入二五日目。

午前、市内を移動中に軍用車両の大規模な陸送を目撃する。車両に付けられている登録番号標を所持している一覧表と照合したところ、県内他都市の駐屯地に所属する部隊と判明した。

本部がこれに関する情報を把握しているのなら、即座に提供されたい。

今回の報告は以上とする。

イ 〇二五
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二五)

秘匿任務第三九九六号継続報告(一〇)

潜入二五日目。

石動を首謀者のひとりとする武力政変(編者註:クーデターの意)の計画に関する情報は受領した。
ならびに、大伴市内における石動ならびに石動指揮下の部隊については調査・監視・報告の必要なしとの指令も了解した。

引き続き、“ガ號計画”“神楽遺跡”に関する調査を優先的に行うものとする。

なお、連絡拠点C(編者註:喫茶店「カサブランカ」のことである)の担当工作員には撤収を勧告した。以後の連絡は暗号文を直接打電にて中継所に発信する。以上、了承されたい。

今回の報告は以上とする。
※編者註:イ 〇二三 から イ 〇二五 までを併読すると、立木の上位者は石動のクーデター計画をかなり早い段階で察知しており、その上で立木に対してはそれを伏せていたのではないかと窺い知ることができる。緊急連絡さながらに短い間隔で送られている立木の報告に対し、軍部の動向への関与を阻害するような指示がこの時点で与えられているという点に着目すべきであろう。つまり立木の上位者は、このクーデター計画そのものには実害がないと事前に断定していた節がある。立木の返信も上位者の事情を読み解いたかのような従順な内容である。ここに、立木の非凡な大局観を見いだすことができるわけである)

ロ 〇一〇

ミツコへ

 たまには仕事の愚痴をこぼさせてくれ。
 まったく、下っ端というのは、やりきれないもんだ。肝心な情報はまったく回ってこず、紙切れ一枚で右へ左へと振り回される。

 大陸で戦争をしていた時にはいやというほどそんな目に遭った。しかしまさか内地で仕事をしていて同じ目に遭うとは、思いもしなかったよ。願わくば、さっさと自営業でも始めたいものだ。

 それはさておき、この街は近いうちにちょっと騒々しくなるようだ。しばらく手紙を出せなくなるかも知れない。いや、あるいはこれが最期の手紙になるかも知れない。

 ただ、これだけは言っておく。たとえ差し違えることになったとしても、お前と一平を殺したあの男だけは地獄に送る。どうやら使える時間はあまり残っていないらしいが、この約束だけは必ず果たすから、安心して待っていてくれ。

恭一郎

イ 〇二六
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二六)

秘匿任務第三九九六号継続報告(一〇)

潜入二五日目。

午後、白鈴會“本尊”に対する直接調査を決行すべく、ダム湖に浮かぶ社に向かう。
道中、ダム湖周辺の林野部で複数のブービートラップを発見。

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トラップの総数は確認できたものだけで五十八カ所。種別は信管に鋼線が結接されている炸薬がおよそ七割を占め、その他はすべて指向性地雷であった。対象範囲は湖畔のほぼ全周に及んでおり、とりわけ白鈴會の“社”への進入路にあたる区域には高い密度で仕掛けが施されていた。

このため“社”への到達に大幅な時間を消費することになってしまい、午後八時四十五分に至りようやく安全な経路を確保、“社”への接近が可能になる。その時付近で爆発音発生、トラップの作動によるものと断定する。

周辺状況を確認したところ、“骸骨男”ならびに“獣人”と、ブレインギアの私設部隊“サークス”らしき数名の兵士による戦闘が進行中であった。

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“骸骨男”と二体の“獣人”は、潜入初期において任務第三八九七号継続報告(二)の中で報告したものと同一であると断定する。既にこれらの尋常ならざる能力については報告済みであったが、今ふたたびその戦闘行為を目撃し、既報の概要をはるかに上回る運動能力・攻撃力を有するものと認定する。主観としては、単独で通常兵力における一個小隊(編者註:一般的に一個小隊は30名から50名で編成される)を容易に制圧せしめる戦力に値するものと思われる。

一方交戦対象である“サークス”もまた、“骸骨男”および“獣人”に互する能力を有するものであった。確認できた兵員数は五名で、それぞれ個別の能力に特化しているように見受けられた。うち二体の写真撮影に成功したので同送する。

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                                                                                                                   写真一 近接格闘戦に特化していると思われる個体。

                                                                                         

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                                                                                    写真二 砲兵一個分隊に相当すると思われる個体。驚異的な火力と弾薬装備量で、誘導兵器をも搭載していた。

戦闘が終息しない限り“社”への接近は困難な状況であったため距離を保ち戦闘の観察を継続していたが、その最中至近に対象丙群“間宮霧子”ならびに工作対象者“新條剛”の姿を確認。

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                                                                                    当然無視すべき状況だったのだが、直後に“間宮霧子”がトラップを作動させてしまい、瞬時にして、自らの安全確保のために両名の前に姿を晒すことを余儀なくされた。その際ついでに両名を爆心から遠ざけ救助した。

                                                                                                                                                                                                                                                    

The_skull_man_10_11avi_001000750The_skull_man_10_11avi_000957624_3                                                                              

                                                                                                                          

                                                                                          

                                                                                    (編者註:このくだりにおける立木の言い回しには、どことなくいらだちを感じさせるものがある。彼にとっては長大な時間を費やし、これから本格的な調査を行おうと思いきや、ほうぼうから邪魔が入っているという状態である。いかに冷静な立木といえど無理もないといったところであろうか)

その後戦闘は終息。付近一帯は戦闘の影響で大規模な山火事が発生。
間宮・新條とともに火勢の弱い場所に移動したところ、そこで対象丙群“御子神隼人”と遭遇。御子神と新條の間で小競り合いになりかけたが、これ以上それに付き合っているとこちらの調査に重大な支障をきたすと判断し、新條に対し御子神との一時的な和解を誘導すべく大伴警察署長“埴輪儀助”に対する疑念を想起させるよう教唆する。

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                                                                                   新條に対する心理誘導は一応の成功を収め、御子神・間宮・新條の三名は御子神の乗用車にて下山。当方は調査活動を再開した。“社”への移動中、“サークス”の構成員を発見。距離を保ちつつ観察したところ通信機を使用する様子が見て取れたので、ただちに広帯域受信機での傍受を試み通信の傍受に成功した。

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                                                                                                     以下、その内容を記す。

サークス「こちらゼロワン。総支配人につないでくれ」
女性「わかりました。しばらくお待ち下さい」
サークス「了解した」

(無音状態 一分弱)

男性「私だ」
サークス「申し訳ありません、取り逃がしました。想定していた以上の抵抗を受け(ここで電気火花のような雑音)一体は倒しましたが、こちらも三体失いました」
男性「費用対効果としては良くないな」
サークス「必ず追い詰めます」

(無音状態 約一〇秒)

サークス「捕捉しました。装備をととのえ、再度捕獲を試みます」
男性「ああ。丁重にな」

会話の内容から見て、“男性”はブレインギア社極東総支配人、“アルカード・ヴァン・ヴォグート”であることはほぼ間違いないと思われる。“女性”については不明である。

この通信から、“サークス”の目的は“骸骨男”または“獣人”の捕獲であることがわかる。これはすなわち彼らを指揮監督している“アルカード・ヴァン・ヴォグート”、ひいてはブレインギア社の目的である。

さらに考察を進めると、捕獲すなわち生け捕りを目的としながら獣人のうち一体を倒したという事実から、彼らの捕獲すべき対象は“骸骨男”であったと絞り込むことができる。そして彼らは“骸骨男”が超人的な戦闘力を持っていることを事前に知っていたと見るべきであろう。でなければ極めて殺傷能力の高い多数のトラップと“サークス”の重装備について説明がつかない。

もうひとつ看過し難い点がある。それはこの交戦地域である。
“サークス”はこの地域にトラップを設置し、“骸骨男”たちが来るのを待ち伏せしていた。なぜ“サークス”は彼らがここに来るとわかっていたのか。そして“骸骨男”と“獣人”は、いかなる目的でここに来たのか。

この付近で重要な意味を持ちうる地点があるとすれば、それは大伴ダムと白鈴會本部をおいて他にはない。“骸骨男”のこれまでの行動を振り返ると、彼はつねに“白鈴會”信者を襲撃・殺害し続けている。この点から、“骸骨男”が白鈴會関連施設を目標としていたのではないかという推測が、事後においては可能である。

問題はブレインギア側がなぜそのことを、しかも事前に推測し得たのかということである。

本報告において先述したが、トラップは“社”に近づくほどその設置密度が高くなっていた。これは“サークス”が“骸骨男”は“社”に接近するものと仮定していたためではないのか。

“社”には白鈴會の“本尊”が祀られている。これはすなわち“神楽遺跡”である。

ここまでの事実を整理すると、“骸骨男”は白鈴會の本尊、すなわち“神楽遺跡”に対しなんらかの目的(奪取または破壊である可能性が高い)を持って、“社”への進入を図っていたと推測される。そしてブレインギア側はその骸骨男の行動を事前に予測していた。すなわち、ブレインギアは“神楽遺跡”と“骸骨男”の間に重大な関係性があるということを当初から把握していた、ということになる。

なお、上記の通信傍受完了後、“本尊”すなわち“神楽遺跡”を調査するためただちに“社”へと侵入したが、その時すでに“社”の内部に“本尊”はなく、運び去られた形跡を残すのみであった。“本尊”の行方に関しては、現時点において不明である。

今回の報告は以上とする。

イ 〇二七
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二七)

秘匿任務第三九九六号継続報告(一一)

潜入二五日目。

本部より下された任務実施要項を確認のため以下に復記する。

一.秘匿任務第三八九七号 及 秘匿任務第三九九六号については、本通信の受信後一〇時間以内に可能な限りの情報を収集し、その任務を終了せよ
二.情報収集にあたっては、「ガ號計画」「神楽遺跡」に関するものを最優先とする

上記要項について了解した。
ただし現状において任務遂行にあたり取り得る手段としては、もはや対象甲群上位者への直接的な事情聴取をおいて他にはない。具体的には、これらすべてにおいて最も正確かつ多量な情報を持っていると思われる対象甲群筆頭“黒潮豪蔵”に尋問を行う以外に選択の余地はないということである。これはもはや諜報とは言い難い行動であるが、その点については了承願いたい。

今回の報告は以上とする。
(編者註:なぜ立木の上位者は突然、このような期限を設けたのか。彼らはおそらくこの時点で、石動らのクーデター計画について新しい情報を入手したのではないかと思われる。つまり彼らが想像していたよりも早い時期にクーデターが決行されることを知ったのであろう。立木の上位者はクーデターによって混乱が生じ、得るべき情報が失われる可能性を危惧したわけである。しかしそれにしても無茶な指令で、立木の心労は察するに余りある)

                                                                                     

                                                                                           

                                                                                     

立木レポート (二)

イ 〇〇六
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(六)

潜入五日目。

本任務の最重要項目に含まれる大伴での新兵器開発の実態解明に向けて、大伴製薬の内部情報を得るべく調査・工作を開始する。
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編者註:大伴製薬本社ビル 外観(資料画像)

継続報告(二)に記した獣人が新兵器に関わるものと仮定した場合、その態様からある種の生体兵器または人工的改造を施された軍用獣である可能性が考えられ、開発においては高度な医学・薬学が応用されていると思われる。従って調査の順序としては大伴重工・大伴精機(編者註:ともに大伴グループの主幹企業である)等よりも大伴製薬が上位となるべきであろう。
上記方針に従い大伴製薬の従業員数名と接触し聞き込みを行ったところ、興味深い情報を得ることができた。

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調査対象甲群に含まれる同社の秘書室長“神代正樹”が、“大伴製薬生化学研究所”に対して頻繁に直接指示を下しているらしい、とのことである。一般的に秘書室長が実働部署に向け、直接細かい指示を与えるとは考えにくい。事実、他の部署に関しては書類のやりとりのみで済ませているとの情報も得た。神代が“黒潮豪蔵”直属の部下であることも併せ考えると、“大伴製薬生化学研究所”が新兵器開発に深く関与している可能性は高いと思われる。

今回の報告は以上とする。

イ 〇〇七
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(七)

潜入六日目。
本日未明、殺人事件発生。報道によると被害者は 鈴木章吾 35歳 大伴製薬生化学研究所員 死体は大伴モノレール軌道上からぶら下げられ、付近の橋脚壁面には髑髏を模した紋様が血で描かれていた。
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先日殺害された烏丸結衣に宛てられた殺人予告状にも髑髏のマークが記されていたが、両者の関連については不明。
被害者は現在調査中の大伴製薬生化学研究所員であり、この事件については詳細な調査が必要と見る。

午後、前日に引き続き数名の大伴製薬生化学研究所員と接触。新兵器開発につながる情報の収集と同時に、前夜の鈴木章吾殺害事件についても聞き込みを行う。その過程で複数の所員から主任研究員“宇佐神明”の名前が挙げられた。

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宇佐神は頻繁に大伴製薬秘書室長“神代正樹”からの連絡を受けているらしく、なおかつ数回にわたり“鈴木章吾”と激しく口論を交わしている様子を目撃されている。すなわち現在調査中である二件の事案、その両方に関与している可能性が高く、早急な調査が必要である。                                                                           
                                                      
なお対象丙群“御子神隼人”が鈴木章吾殺害事件に関する取材目的で研究所広報部に来訪との情報あり。御子神が“骸骨男”を継続的に追っていることから見て、この取材は自然な行動である。しかるにこの件に対して特別な注意を払う必要はないと思われる。
                                                       
今回の報告は以上とする。

イ 〇〇八
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
         
秘匿任務第三八九七号継続報告(八)
                                                            
潜入七日目。

前日に引き続き大伴製薬生化学研究所員と接触。聞き込みにより宇佐神の担当している研究内容が判明した。音響が動植物の生育・行動に及ぼす効果についての研究を行っているとのこと。兵器開発には縁遠い印象だが、先入観を排し継続調査対象とする。
                                                            
正午過ぎ、生化学研究所近くのレストランにて情報源・工作対象を拡大すべく昼食休憩時の女子社員に接触を図るも、偶然その場に居合わせた丙群“御子神隼人”が対象となるべき女子社員と些少な金銭上の揉め事を起こしており、当方の目的は達成できず。
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潜入当初は御子神の取材能力と“黒潮豪蔵”との関係を利用し有益な情報を引き出すことを企図していたが、現状においてその成果は上がっておらず、むしろこの一件の様子を見る限りでは今後の期待も難しいと言わざるを得ない。方針の再考が必要と思われる。

※編者註:立木はこれまでのところ御子神隼人と積極的に接触を図り、協力者に仕立てようとしていた。しかし御子神の取材の方向はあくまで“骸骨男”に限定されており、立木の示唆にも関わらず大伴コンツェルンの闇の部分には向かわない様子だったのであろう。それを見て取った立木は、早くも御子神の有効活用をあきらめ始めている。この「見切りの早さ」も、一流の諜報員には必須の資質と言える。
                                                                                                                                                      
今回の報告は以上とする。

ロ 〇〇四

ミツコへ

 また、例の青年と昼を一緒に食べたんだが、彼はどうも見栄っ張りなところがあるのかも知れない。懐に余裕がない様子なのに、レストランで三人のOLさんたちに食事代を出せと詰め寄られていた。
まあ細かいいきさつはわからなかったが、私が立て替えてあげたら、たいそう喜んでいたよ。そういう素直なところは、好感が持てる。つまらない男なら「余計なことをするな」などと、人の親切を逆手に取ったりするものだからね。私もつい気分が良くなって、正義の味方はピンチの時に現れる、なんてことを言ってしまったよ。
The_skull_man_04_05avi_000990990 さらに愉快なことに、彼はニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」を手にしていた。

   

                                                                                     

The_skull_man_04_05avi_000999833 私たちの若い頃は、皆ニーチェやサルトル、カントやらショーペンハウアーやらにかぶれたものだが、彼の年頃ではめずらしいと思う。しかもどう見ても意味がわかっているとは思えないところが、またおかしくてね。思わず、少しだけ講釈を垂れてしまったよ。
 ニーチェといえばニヒリズムと短絡する輩が私の若い頃にはいたものだが、そんな単純なものじゃない。ニーチェはニヒリズム――つまり、この世のすべてが無意味で虚しい――という状態を、克服しようとしていた。と、私は思う。
 お前と一平を喪った私も、常にニヒリズムに取り憑かれることを畏れているのかも知れないな。だが、超人になれなくとも、こんな愉快な出来事があるおかげで、それほど絶望せずに日々を暮らしていけるよ。

恭一郎

イ 〇〇九
発 代理人二十五号
経由 中部地区拠点六〇四 宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(九)

四十八時間もの長期にわたり報告を送付できない状況に置かれていたが、その理由については本報告中で説明する。任務は現在も継続して実行中なので、代替諜報員の要はなし。

潜入七日目深夜から八日目未明。
“宇佐神明”の動向を観察するため、対象の自宅付近で張り込みを実施。

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その際、“御子神隼人”“間宮霧子”両名を目撃する。

御子神・間宮の目的も宇佐神に対する張り込みであると思われる。この直後、宇佐神は自宅を出てモノレールの駅に向かう。御子神・間宮、宇佐神の尾行を開始。こちらはやむをえずさらに後方から尾行を行う。

宇佐神は駅舎内のコインロッカーに小さな荷物を入れ、そのまま別の出口から駅を出た模様。なおその時御子神は宇佐神を失尾していた。(編者註:「失尾」とは、諜報用語で尾行対象を見失なった状態のことを言う)

その直後、モノレール列車接近音を確認。外出禁止時刻を過ぎての運行は通常ありえず、対象甲群による何らかの非公然活動に関わっている可能性を鑑み、調査の必要ありと見なしホームに向かう。
現着の時点で既に列車は停止しドアは開放状態であった。さきほど宇佐神を失尾していた御子神がなぜかホームにおり、モノレールに乗車する。その意図は不明。こちらもモノレールに乗車する。

走行開始後、車内に“骸骨男”出現。当方の存在には気づいていない様子だったが、身を隠すこともなく車両中央に立っていた御子神はただちに発見され、“骸骨男”は射撃体勢に入った。緊急事態とみなし、やむをえず御子神を救援する。
 

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“骸骨男”の使用火器は、その外観および発砲音の特徴から、モーゼルC96拳銃またはその派生型と推定する。こちらも銃を装備し、護身戦闘の態勢をとる。骸骨男は我々に対し車内で数発の銃撃を行い、その後移動し列車の屋根ごしに銃撃。当方この際左上腕部に被弾し、交戦能力をほぼ喪失する。骸骨男は車窓を突き破りふたたび車内に戻り、御子神を襲撃。

The_skull_man_04_05avi_001198448 御子神は圧倒的不利な態勢に追い込まれていたが、当方が列車の緊急停止ドアー開放コックを作動させたことを契機に、骸骨男を車外へ押し出した。骸骨男は軌道下の河川に落下し、その後の行方は不明である。
負傷により移動が困難であったため、御子神には逃走を教唆しこちらはその場に留まった。十数分後、駆けつけた警察官が手配した救急により、大伴病院に搬送される。手当を受け、数日間の入院加療を要するとの診断を下された。

以上の状況により、しばらくの間本部との連絡手段を喪失した。

潜入八日目。

未明より大伴病院三〇五号室に入院中。
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聞・テレビによる前夜の事件に関する報道の中で、当方の通名が公開されてしまった。この件に関する譴責は後日行われるよう強く要請する。(編者註:この場合の「譴責」とは、諜報員であるにも関わらずマスコミによって存在を明らかにされたという立木の失策に対し、組織の上位者によって戒告の意味で始末書等を提出せよと下される命令のことである。立木は、任務継続中でありそれを行う余裕はない、ということを上位者に対してアピールしているわけである)
連絡経路を確立するため、担当の看護婦 早川みどり(二八歳 独身) に対し工作を開始。

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可及的速やかに協力者とするため、もっとも即効性が高い手段を用いて信頼関係の構築を試みる。

正午過ぎ、事情聴取目的で大伴署刑事“新條剛”が病室に訪れる。質問に対し当たり障りのない返答を繰り返しつつ、さりげなく大伴警察の内情について新條の印象を聞き出す。新條は予想通り警戒心が薄く(編者註:資料イ 〇〇一 後半部における新條についての評を参考のこと)、警察上層部に対する不満をもらしていた。

同日夕刻、新條ふたたび来訪。新條は先刻と同様の質問を繰り返すばかりである。会話の中で大伴警察署長の氏名が判明した。警察署長“埴輪儀助”を調査対象甲群に加える。

病院の消灯時刻を過ぎたところで、特に異常はなくとも作為的にナースコールを押して数回にわたり早川看護婦を呼び出し、接触頻度を上げる。

潜入九日目。

午前、“新條剛”三度目の来訪。
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昨日までの会話の流れをさらに推し進め、“埴輪儀助”に連なる対象甲群(編者註:大伴コンツェルンを中心とする大伴市の実質的支配者集団である)についての情報引き出しを試みる。この際、埴輪署長がさらなる上位者によって操られているという主旨の発言を聴取できた。新條はその上位者が何者であるかについては言及しなかったが、それらが“黒潮豪蔵”を頂点とする対象甲群の上層部であることは明白である。今後の新條との関係を良好に維持すべく、モノレール駅で“宇佐神明”らしきものを目撃したと意図的に示唆。新條は宇佐神が“骸骨男”であると推定しているようで、当方の示唆を有益な情報として受け取ったようである。

しかし念のため記しておくが、少なくともモノレール車内における“骸骨男”は宇佐神ではあり得ない。前述したとおり、宇佐神はコインロッカーになんらかの物品を投入し、そのまま駅から出たことを当方が目撃している。その他の状況を鑑みても、“骸骨男”はモノレールが駅に入構する前から既に乗車していたと断定できる。

なお、看護婦“早川みどり”への工作は短期間で予想以上の効果を上げることができ、こちらからの平易な要求に関しては秘密を保持しつつ協力を得られる関係を構築した。
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これにより秘匿文書の往来能力が回復し、現時点での送付が可能になったのである。なお念のためこの文書は無作為に選択した中部地方の諜報拠点を経由し送付した。

今回の報告は以上とする。

※編者註:この資料から、立木の諜報員としての能力が極めて高かったことがうかがい知れる。驚くべきことに病院の看護婦をわずか一日半で協力者とし、文書の送付を再開している。通常の郵便物がすべて検閲対象とされていたこの大伴市内において、一時的にこの看護婦が特殊な経路による書面のやりとりを補佐していたものと考えられる。もちろんそれが諜報活動を助けているとは想像だにしなかったはずである。立木がここで述べている「もっとも即効性が高い手段」については不明だが、女性に対する高いコミュニケーション能力を持っていたことに関しては間違いないであろう。 

ロ 〇〇五       

                                                                  
ミツコへ

 今日は良い報せがあって、手紙を書いた。
 お前と一平を死地に追いやったあの男が、この大伴で警察署長に収まって、のうのうと生きていることを知ったのだ。
 決して、逃がしはしない。
 あと少しだけ、待っていて欲しい。
                                                                  
恭一郎

                                                                              

※編者註:上記の文面から詳細を推し量ることはできないが、立木は大伴警察署長・埴輪儀助に対し、私的な怨恨を持っていたのではないかと思われる。資料 イ 〇九〇 においてはあくまで冷静に埴輪の存在を報告しているが、その心中はいかなるものであったのだろうか。

イ 〇一〇発 代理人二十五号経由 中部地区拠点六〇四 宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(一〇)

潜入十日目。

いまだ負傷は回復せず動きの取れない状態であるが、報道により事件発生を知る。昨夜、“宇佐神明”が建設中の大伴タワー内において、怪人の手で殺害されたとのこと。報道での“怪人”とは“骸骨男”を指していると思われるが、確たる目撃者の存在は伝えられていない。

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大伴市における新兵器開発を調査する上での重要な端緒となり得る対象が失われたという点において、宇佐神の死亡は大きな痛手である。退院次第“大伴製薬”に対する調査を一刻も早く再開したい。

午後、以前から接触を繰り返してきた対象乙群“白鈴會”信者のうちの一名から、本が届けられた。入信後一年以上を経過した信者のみに渡されている「白鈴會のあゆみ」という書籍で、教団の詳細な沿革が書かれている唯一の資料である。かねてから入手を画策していたこの本を数日間借用することに成功したので、必要部分の複写作業に着手する。

今回の報告は以上とする。

イ 〇一一発 代理人二十五号経由 中部地区拠点六〇四 宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(一一)

潜入十二日目。

前日昼、事件発生。調査対象甲群 大伴市長“日下公彦” が殺害された。報道によると、“骸骨男”の犯行らしい。なお事件の現場に対象丙群“御子神隼人”が居合わせたとの報道もあったが、おそらく対象甲群の動向に関連するものではないと思われる。
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大伴市内における報道の信憑性については、潜入初日に目撃した“臼井昭彦”殺害事件を事故として扱っていることからも、低いと言わざるを得ない。つまり対象甲群による情報操作が行われているということである。
しかし、なぜ当初は事実を曲げてまで隠蔽していた“骸骨男”の存在を、烏丸・鬼塚殺害事件以降は積極的とも思えるありさまで報道しているのか。なおかつ今回の犠牲者はこちらが想定していた対象甲群の一員、大伴市長“日下公彦”である。
対象甲群の内部に、なんらかの動揺が生じている可能性がある。負傷が回復し次第、この動揺を利用してより迅速かつ正確な情報収集を企図したい。

イ 〇一二 発 代理人二十五号経由 中部地区拠点六〇四 宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(一二)

潜入十三日目。

現在は依然として入院状態が続いているが、明日には退院の予定である。いまのうちに、これまでに収集した 対象乙群“白鈴會” に関する情報を整理し、報告する。

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白鈴會は神楽村の土着信仰を礎として興された宗教であり、その創始者は番場壮吉と名乗る人物である。壮吉の経歴については不明の点が多いが、調査の結果、神楽製薬社長“神楽辰之”の別名である可能性が極めて高い。

The_skull_man_08_09avi_001252252 The_skull_man_06_07avi_001146479 The_skull_man_08_09avi_001243952_3

本尊は教団発祥の地である神楽湖に浮かぶ社殿に安置されている。その本尊は、信者から得た教団の内部資料によると、「黄泉の国から来迎したもの」とされているが、実際にそれが何であるかは、現時点において不明である。

編者註:この写真では全体像が捉えられていないが、中央・上部分に見える奇妙な形状の塑像らしきものが“本尊”現在、理事長として教団を取り仕切っているのはかつて辰之の妻であり、現黒潮豪造夫人、沙羅である。

The_skull_man_06_07avi_001471471 The_skull_man_06_07avi_001213880 そして巫女として教団の教祖を務めるのは、“黒潮摩耶” すなわち、黒潮豪蔵・沙羅の娘である。
我々が“白鈴會信者のペンダント”と仮に呼称している 標本 ト-八 は、信者の間では“ご守護”と呼ばれており、これはすべての信者が所持しているものではない。入信後一定の期間を経て教団幹部の承認を得た信者が、教祖“黒潮摩耶”によって施される儀式を受けることにより、与えられるものである。

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この“儀式”は、教団内では秘儀とされている。その内容はそれを受けた者しか知り得ず、儀式の内容を口外することはたとえ信者間であっても許されていない。

以上が、現時点で判明している“白鈴會”の実態である。この調査内容から、“白鈴會”が大伴コンツェルンと深く結びついており、大伴市の支配構造において重要な役割を果たしていることがわかる。しかしいまだ不明な部分も多く、全容解明に向けてさらなる調査が必要であると考える。

今回の報告は以上とする。

ロ 〇〇六

ミツコへ

 前に送った手紙に書き忘れていたんだが、実は怪我をしてしまってしばらく入院していた。まだまだやれると思っているんだが、やはり年には勝てないということか。
 明日には退院できるから、そう心配することはない。それに、親切でかわいらしい看護婦さんがいろいろと面倒を見てくれて、なかなか快適な入院生活だったよ。
 昔からよくお前には「あなたは妙にもてるから心配よ」と言われていたが、もてない男と結婚するよりはもてる男を独占する方が、お前も気分がいいだろう。
 まあ、男の甲斐性というやつだ。大目に見てほしい。

恭一郎

イ 〇一三
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(一三)

潜入十四日目。

本日午後、大伴病院を退院。
優先事案である“大伴製薬生化学研究所”の調査を再開する。
入院する直前に獲得した情報提供者から、死亡した“宇佐神明”の研究室は閉鎖されており、宇佐神ルームで行われていた研究は“神代正樹”の指示によって大伴製薬本社に移管されたとの情報を得る。
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この事実は、宇佐神の研究が秘密裏に行われている新兵器開発において重要な位置を占めていた可能性の高さを示していると思われる。
引き続きこの研究と新兵器開発の関連について調査を進め、可及的速やかに証拠となる物件・情報を収集すべく工作を継続するものである。

                   
今回の報告は以上とする
                           
※編者註:上記資料の末尾段落に注目せよ。再度記すが、資料 イ-〇〇一 によると立木の最重要任務は「大伴市を実質的に支配している組織の反体制的動向ならびに新兵器独自開発の実態調査」である。すなわちこの任務は、大伴市支配者グループによる強力な新兵器をバックボーンにしたクーデターの可能性をも視野に入れているわけである。さらに「証拠となる物件・情報を収集すべく工作」という文言によって、立木の上位者がクーデターの未然防止を至上命題にしていることがこれまで以上にくっきりと浮かび上がり、おのずと立木の属する組織が現在言うところの警備警察・公安警察に類するものであるという仮説が成立するのである。これらは国家の安寧を目的とする組織でありながらその活動内容は非公然・非合法のものであり、まさしく国内における諜報戦の中核を成す存在である。

イ 〇一四
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(一四)

潜入十五日目。

午後、情報提供者の獲得および大伴製薬本社への潜入をも視野に入れ、本社ビル周辺の状況調査を行う。
その際、所持していた広帯域受信機に極超短波帯電波を受信。周波数は八九五.〇六メガヘルツ。詳細な発信地点は特定できないが、簡易的に電界強度を測定したところ大伴製薬本社ビル内からの電波であることは間違いない。すなわち、本社ビル内のどこかに、盗聴器が設置されているものと思われる。
今後はこの周波数を傍受し、情報収集の一助とする。
(編者註:立木が所持していた“広域帯受信機”とは、ワイドバンドレシーバーとも呼ばれるもので、AMラジオで使われている0.3メガヘルツ程度からUHFテレビ放送で使われている2500メガヘルツ程度までの電波を受信することができる。一般的に盗聴器は電源が供給されている限り10メガヘルツから1000メガヘルツの範囲内で常時電波を流し続けているため、周波数を変更しながらこの受信機を用いることで盗聴器を発見することができる。立木はおそらく自分で盗聴器を設置・運用するために受信機を持ち歩いていたものと思われるが、下調べの段階でうれしい誤算があったということであろう。すなわち、盗聴器は既に何者かの手によって本社内のどこかに設置されていたということである。立木は設置のリスクを冒さずに、ただそれを傍受するだけでひとつの情報を得ることができるというわけである)

今回の報告は以上とする

イ 〇一五
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
            
秘匿任務第三八九七号継続報告(一五)
               
潜入十六日目。
                           
午前中から、先日発見した周波数で大伴製薬本社ビルから発せられる盗聴電波の傍受を試行。
午後二時、会話音声の傍受に成功。以下にその内容の要所を記す。

                              
(物音 ドアが開く 足音複数 椅子を引く音複数 ドアが閉まる)
(機械作動音 おそらく写真投影機の作動音と思われる)
人物A「埴輪の女に始まって13人、切りのいい数字といえるかな」
(ここから機械作動音 断続的に)
人物B「ただ、神は惜しいことをしました」
人物C「仕方あるまい、しょせんは消耗品だよ」
人物D「例の音楽が不完全だったことが、今後足枷にならなければいいが」
人物A「結果論ですが、大衆は怪人を糾弾する我々を支持しています」
人物B「おかげで、造反者の整理もつきました」
人物C「ついでに、本物の怪人も始末できたら良かったんだがな」
人物A「軍の一部に不穏な動きがあると報告が来ていますが、こちらは」
人物C「それは僕が手を打っておこう」
人物D「よろしく頼む。さて、例のお客様だが」
(機械作動音)
人物B「アルカード・ヴァン・ヴォグート。南亜戦争に従軍していたという経歴以外、一切が不明の人物です」
人物A「もしやBGも、我々の計画を嗅ぎ付けたのでは?」
人物 「(嘆息)」(おそらく人物Dの嘆息と思われる)
(しばらくの間、一同沈黙)
人物D「船越君、予定は?」
人物B「五日後の夜に面会を要請してきています」
人物D「まずは出方を見よう。話はそれからだ」
(機械作動音停止)
(物音 椅子を引く音複数 足音複数 ドアが開く)

                  
この傍受の後、大伴製薬本社ビル裏口で張り込みを行ったところ、会合終了から三〇分後に 代議士“霧野竜二”が、さらに三〇分後に 大蔵次官“兵藤靖行”が姿を現した。

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彼ら二名は傍受した会合に参加していたものと思われる。既知の音声との照合から、上記会合における“人物A”が兵藤、“人物C”が霧野であるとそれぞれ推定できる。“人物D”については、会話の内容に加え既知の音声との照合から 対象甲群筆頭“黒潮豪蔵”ではないかと思われる。“人物B”については、会話の内容から対象甲群 大伴製薬専務“船越英明”であるものと思われる。

会合の内容から推測し得る複数の事象を以下に列挙する。
                 
一.この会合の参加者こそが 調査対象甲群「大伴市を実質支配する非公然組織」の最上位を構成するものである
                       
二.同組織は、複数(おそらく一三名)の造反者の抹殺を行っていたと思われる
                            
三.上記の実行犯として、“神晃一”なる人物が用いられていたようである
                           
四.「例の音楽」が具体的に何を指すものかは不明だが、当初“宇佐神明”が担当していた音響に関する研究となんらかの関連があるものと思われる
                         
五.「結果論ですが、大衆は怪人を糾弾する我々を支持しています」「ついでに、本物の怪人も始末できたら良かったんだがな」という二つの発言から、この組織が既にあった“骸骨男”の存在に便乗する形で“神晃一”をそれに似せた姿に仕立て、造反者の抹殺をさせていたものと思われる
                          
六.会話の中に現れる「アルカード・ヴァン・ヴォグート」は、軍需における市場占有率世界一位である多国籍企業“ブレインギア社”極東総支配人として知られる人物を指しているものと断定できる。これは、そもそも大伴製薬とブレインギア社が提携関係にあるということからも明白である
                          
七.人物Aの発言「もしやBGも、我々の計画を嗅ぎ付けたのでは?」における「我々の計画」とは、大伴市独自の新兵器開発を指しているものと思われる。同時にこの発言から、計画はBGすなわちブレインギア社に対しても秘匿されているものであると推測する
                     
今回の報告は以上とする。

イ 〇一六
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
                    
秘匿任務第三八九七号継続報告(一六)

秘匿任務第三九九六号に関する報告(一)
                               
本部より下された追加任務を拝命する。命令内容確認のため任務実施要項を以下に復記する。
                             
追加 秘匿任務 第三九九六号 実施要項
一.大伴市を実質支配する非公然組織による新兵器独自開発と、先の大戦時に国軍および神楽製薬によって進められていた「ガ號計画」との関連調査 および「ガ號計画」と「神楽遺跡」の関連調査
二.宗教団体白鈴會と、「ガ號計画」「神楽遺跡」との関連調査
三.南亜戦争に投入され、その後作戦行動中行方不明になった「ガ號計画」実験体(通称“ロストナンバー”)に関する調査 それにかかる人物として、当時南亜戦争に従軍神父として派遣されていた“神崎芳生”に関する調査
四.ブレインギア社極東総支配人 “アルカード・ヴァン・ヴォグート”の動向調査
                                            
付記一 命令発効は即日とし、かつ緊急を要する
付記二 ガ號計画および神楽遺跡については、同送の資料を参照のこと
付記三 第三項に関して当時の写真を同送するので調査に活用されたし
The_skull_man_08_09avi_000743451 編者註:立木の上位組織から立木宛に送られた写真資料

従来の任務を遂行しつつ、上記任務に本日より着手する。
(編者註:この時立木に与えられた命令書・資料の類は未発見である。しかしこのように立木から発信された報告によって、彼にどのような命令が与えられていたのかを知ることができる。暗号文書とはいえ解読されるリスクをともなうこのような文中にわざわざ受けた命令の内容を書いているということに不自然さを感じる向きもあるかもしれないが、実はこれは遠隔地で任務に当たる諜報員にとって必須の行動なのである。命令の伝達系等が敵性勢力によって遮断される可能性、あるいは伝達経路の下流域が露見し敵性勢力によって偽装・改変された命令が諜報員に送られる可能性は消し去れず、そういったトラブルが発生していないことを確認するために、どのような命令を受け取ったかを返信することがおのずと要請されているわけである)

                 
追加任務着手に先立ち、現時点での所感を述べる。
先の大戦中および南亜戦争における「ガ號計画」の経緯については、資料によりおおむね理解した。
敗戦により放棄されたはずの「ガ號計画」が大伴における兵器独自開発の根幹をなしているという可能性を示唆する今回の追加任務内容は、「ガ號計画」と「神楽遺跡」の間に相関が認められる場合においてのみ妥当と思われるが、単なる発掘物である「神楽遺跡」が新兵器開発と結びついているとは想像し難い。大戦末期に国軍が発掘に関わっていたという事実は否定できないが、敗色濃厚な陣営が超科学的な力にすら期待するという傾向は我が国に限らずドイツ等にも見られたものであり、しかしそれが奏功した事例はない。加えて「ロストナンバー」なるものに関してはその実在すら疑わしく、調査対象としての有意性を疑問視せざるを得ない。
ただし第四項「“アルカード・ヴァン・ヴォグート”の動向調査」に関しては、大伴製薬とグレインギア社の関係、および前回報告における盗聴内容から考え、必然性を認めるものである。
                                                    
初期任務に関し一定の成果を見いだしつつある現時点においてなぜこのような追加任務が下されたのか理解し難い部分もあるが、命令は遂行する。しかしその優先順位については当初任務の進捗度も勘案し、こちらで臨機応変に策定する。上記所感を考慮されたい。

(編者註:立木の所感は上位者の命令に対する率直な疑問であり、潜入諜報員として自らの身を守らねばならない彼にしてみれば当然の意見であると言える。つまり、調査対象が増えれば増えるほど諜報員のリスクは増大するからである。しかしこの時点で追加の命令を下した上位者の事情にも理解できるものがある。おそらく立木の上位者は、前回報告に“アルカード・ヴァン・ヴォグート”の名前を見て、状況の急変を予測したのであろう。さらに、上位者はこの時点での立木が知り得ない情報も持っていたと思われる。それゆえの朝令暮改的対処であったということは想像に難くない)

        
潜入一七日目。
           
追加任務遂行のため“神崎芳生”の常駐地である“大伴聖マリア教会”に向かう。教会にて対象丙群“間宮霧子”および乙群“白鈴會”教祖“黒潮摩耶”を確認。
The_skull_man_08_09avi_000683099 The_skull_man_08_09avi_000722889

“黒潮摩耶”とこの教会との関係は不明。
時間的猶予がないため、危険ではあるが調査対象“神崎芳生”に対し直接聴取を行う。最低限の偽装として、こちらの表向きの職業を明かし、「南亜戦争中行方不明になった女性を人捜ししている」という体裁をとる。
送付された“ロストナンバー”の写真を見せたが神崎は見覚えがないとの旨を主張、かつ自然な反応を示す。ところが、帰り際に“ガ號計画”の件を持ち出したところ、神崎に顕著な動揺が見られた。のみならず、神崎の側からこちらに対し、“ガ號計画”についての詳細な説明を求めてきた。
この事実から、“神崎芳生”は“ガ號計画”について何らかの知見を持っており、なおかつ“ロストナンバー”と南亜戦争当時接触していた可能性が高いと思われる。

夕刻以降、「神楽遺跡」に関する調査の端緒を得るべく、元「神楽村」住人に対し聞き込みを行う。複数の元村民から出土した遺跡の目撃情報が得られたが、彼らの発言には一様に「遺跡には祟りの力が込められている」または「神の力が宿っている」などという非科学的・土着信仰的な印象が付与されており、聴取の内容がどの程度有為なものか判断しかねるところがある。
ただ一点、遺跡が発掘される前より“神楽一族”がこの村落において“オサキモチ”(いわゆる狐憑きの意)とされており、畏怖の対象であったということが複数の証言により明らかになった。ここで言う“神楽一族”とは神楽製薬社長“神楽辰之”の家系を指している。遺跡による超科学的な事象については調査の手法を持ち得ないが、これまでに収集した情報を鑑み、新興宗教“白鈴會”の萌芽と“神楽遺跡”の関連を調査する必要性はあると考える。
                                         
今回の報告は以上とする。

ロ 〇〇七
               
ミツコへ
                     
 今日は仕事も兼ねてキリスト教の教会に行ってきたんだが、そこで若い娘さんがよその国の民話を語っているのを聞いて、思わず涙ぐんでしまったよ。

The_skull_man_08_09avi_000664831 年を取ると涙もろくなっていけない。だが、本当にいい話だった。お前や一平にも、あの娘さんの柔らかい語り口で、このお話を聞かせてやりたいものだ。
余韻に浸っていたかったが、いまの私の仕事というのが因果なものでね。こんないい話を聞いたすぐ後に、今度は人の顔の下を探らなければいけないのだから。
今日ばかりは、少し自分の仕事に嫌気がさしてしまった。だが、お前と一平のけじめをとるまでは、投げるわけにはいかない。こんな年になってまでやり残したことがあるというのは幸せなのか不幸せなのか、私にもよくわからないが、とにかくやらないわけにはいかない。
                
恭一郎

イ 〇一七
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
                
秘匿任務第三八九七号継続報告(一七)

秘匿任務第三九九六号継続報告(二)
                         
潜入一八日目。
                           
午後、“白鈴會”本部近辺の地理を調査。これは近日中に教団本部建物内と“本尊”がおさめられている“社(やしろ)”に潜入し調査を行うための準備である。これまでの調査から、この“本尊”が“神楽遺跡”そのものである可能性が考えられ、追加任務遂行のためには処理すべき事案のひとつであると判断する。
                            
調査中、本部周辺のダム湖畔にて対象丙群“御子神隼人”“間宮霧子”と偶然に遭遇。
The_skull_man_08_09avi_001028570 御子神に対し“神楽遺跡”および“神楽一族”に関する情報の一部を教唆。顕著な反応は見られず。
御子神も“白鈴會”について取材しているようだが、いまだ“骸骨男”の件を中心に据えているようで、やはりこちらの調査・工作に寄与するような動きは期待できない。むしろ目的を異にしながらもなぜかこちらの活動地域で遭遇する場合が多く、その対処に想定外の時間を空費させられている。
                           
今回の報告は以上とする。

ロ 〇〇八
                 
ミツコへ
                     
今日は久しぶりに、趣味の釣りを楽しんだ。

The_skull_man_08_09avi_001029779  一匹も釣れなかったが、私に言わせればそんなことは問題じゃあない。釣れる釣れないで一喜一憂しているうちは、釣りの本当の楽しさはわからないということだ。
 魚に、遊んでもらっていると思えばいい。それが釣りの面白味なんだよ。私がこう説明しても、お前にはよく「あなたの言ってることは意味がわからない」と言われたが、釣りとはそういうものなんだ。
 そりゃ勿論、釣れるにこしたことはないがね。
                              
 一平がもう少し大きくなったら、釣りに連れて行ってやろうと思っていたんだが。こればかりは本当に、悔しい。
                           
恭一郎

イ 〇一八
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
                       
秘匿任務第三八九七号継続報告(一八)

秘匿任務第三九九六号継続報告(三)
                                               
潜入二一日目。
                   
継続報告(一五)に記した盗聴電波傍受の成果によって、本日“アルカード・ヴァン・ヴォグート”が大伴製薬本社に来訪する予定が事前に判明していたので、午後からは本社ビル周辺で張り込みを続ける。
                       
午後六時 ヴォグート、女性秘書を伴い来社。大伴製薬本社ビル内にて“黒潮豪蔵”と会談した模様。
The_skull_man_08_09avi_001997038 午後七時、ヴォグート、大伴製薬本社ビルをあとにする。内容は不明だが、短時間の会談だったようである。
                 
ヴォグートはそのまま秘書とともに大伴市内の高級ホテル“ホテルプラトン大伴”に滞在の模様。
                    
同日夜、当方の滞在するホテルにて対象甲群“神代正樹”を目撃。既に買収済みのベルボーイ(編者註:諜報員が滞在先の宿泊施設で従業員を買収することは、基本中の基本である。これは主に自己防衛、つまり自らの秘密を保持するために行われるものだが、この事例のように新たな情報収集に際して非常に有意義に働くことすらあるのだ)から得た情報によると、本日午後チェックインし、一二月二五日までの間滞在予定であるとのこと。チェックイン時の氏名は“風田五郎”すなわち偽名である。
大伴市内のマンションでひとり暮らしをしている神代が、なぜこの間偽名を使ってホテルに滞在するのか。なんらかの必然があっての行動と思われる。チェックアウトの予定日が“白鈴會”の最大祭事“降臨祭”と同一日であることも鑑み、以後その動向に注意したい。
                    
今回の報告は以上とする。

イ 〇一九
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
           
秘匿任務第三八九七号継続報告(一九)

秘匿任務第三九九六号継続報告(四)
                   
潜入二一日目。
                   
ホテルにて“神代正樹”の動向を探るべく、ロビーにて張り込みを行う。神代、部屋から出る様子なし。しかしロビーで大伴製薬専務“船越英明”および白鈴會理事・黒潮豪蔵夫人“黒潮沙羅”を目撃。
The_skull_man_08_09avi_002232315 両名は“神代正樹”の部屋に向かった模様。
神代の隣室は空き部屋になっており、買収したボーイから事前に借りた鍵で侵入可能のため、コンクリートマイクによる盗聴を試行。
以下、その内容である。

                                     
船越「大株主のご快諾のおかげでトントン拍子ですよ」
神代「いろいろ、ご苦労様でした」
船越「中堅以下の株主は、まあ、右へならえというやつでしてね」
神代「あとは幹部会を」
船越「そちらについても、近日中にはよいお知らせができると思います」
神代「よろしくお願いします」
船越「では、今日はこのへんで」
                               

盗聴中、黒潮沙羅の発言は一度もなかった。
この会話の内容から、船越と神代が密約を結んでおり、大伴製薬の乗っ取りを画策していることが推測できる。
さらに大伴製薬本社ビル内で行われていた盗聴も、船越が仕掛け神代が傍受していたという解釈が可能になる。
この事実が今回の調査案件に与える影響は小さくない。以後、継続的な観察および状況に応じた工作が必要であると認識する。
                           
神代に対する調査は一時中断し、“アルカード・ヴァン・ヴォグート”滞在中のホテルに向かう。
ヴォグートに外出の気配なし。ただし女性秘書が深夜二三時頃外出、これを尾行する。
                                
女性秘書、大伴駅構内に到着。既に終電車の時刻は過ぎているにも関わらず、ほどなく六番ホームに列車が入線。
The_skull_man_08_09avi_002631423 The_skull_man_08_09avi_002639055

列車から数名の男が下車。
       

                      
                                                                 
彼らはその着衣・身体的特徴から見て、ブレインギア社が非公式に保有しているとされる私設軍の一部隊であると思われる。その役割から推し量ると、戦闘行動を要請され大伴入りしたことは間違いない。以後厳重な監視が必要と思われる。
                       
今回の報告は以上とする。
                     

イ 〇二〇
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所
                   
秘匿任務第三八九七号継続報告(二〇)

秘匿任務第三九九六号継続報告(五)
                              
潜入二二日目。
                             
前夜ブレインギア社関連の調査を行っている際、ほぼ同時に事件が発生していた模様。
                         
新聞報道によると、市内“大伴百貨店”にて白鈴會信者“如月奈美”が殺害され、容疑者“御子神隼人”を緊急指名手配とのことである。
                        
その現場付近で“御子神隼人”“間宮霧子”らしき男女を見たという情報もあったが、なぜか被害者である“如月奈美”の目撃情報が得られない。如月が目撃されたのは大伴百貨店前で、その時には既に死亡していたとのことである。
                      
御子神は逃走、そのまま行方不明となった。
                      
今回の報告は以上とする。

◆            

ロ 〇〇九
               
ミツコへ
                  
 いつも手紙に書いているあの面白い若者が、殺人犯として指名手配されてしまった。
 だが私にはわかる。彼はやっていない。
 濡れ衣を着せられる人間の気持ちは、よくわかっているつもりだ。それに加えて、身近な人間が濡れ衣を着せられてしまうつらさも、私は知っている。
 この歳になってまたそれを味わうとは、思ってもみなかった。しかも、濡れ衣を着せているのはあの時と同じ人間なのだから、まるで笑えない話だ。
 この街での仕事も、どうやら終わりが近づいているようだ。やり残しがないよう、お前と一平に良い報せを送ることができるように、最善を尽くすとしよう。
            
恭一郎
                             
                         
   

立木レポート (二) 終了
                 
                     
                                             
                         
                          

立木レポート (一)

立木レポートとは。

「スカルマン」全13夜で重要な役割を果たした立木恭一郎。
本編で明かされる事は無かったその秘められた任務とは?
やがて知る事になる大伴市の深い闇。
任務遂行中の行動や心情を
レポートと亡き妻への書簡の形でご紹介します。

アニメ本編の番外編ともいうべき、もうひとつの「スカルマン」ストーリー。
それが立木レポートです。
どうぞお楽しみ下さい。

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 


(秘)


資料 大伴市における諜報活動の概要

資料素材
イ.○○国諜報機関が保持する一連の暗号通信文書
ロ.書簡(複数あり)
宛先「東京都八王子市弐分方町○丁目×番地××号 左文字ミツコ殿」 
差出人「東京都中央区銀座七丁目×番地××号五階 立木興信所」

資料素材イは、我方の工作員が非合法手段に依って複写し、それを解析班が復号したものである。文中主に文書発信人として現れる「二十五号」という暗号名は、当時大伴市内に潜入し諜報活動を行っていた、通名・立木恭一郎を意味するものであることが判明している。他、文中に現れる符丁等については資料編集者が適宜注釈にて補足しているので参照のこと。

The_skull_man_02_03avi_002300884_8参考:文書作成に用いられていた暗号機(同型機)暗号生成の法則性から、エニグマ系の改良型と推測される


資料素材ロは、上記諜報員すなわち通名・立木恭一郎が書き送ったものと推定されるが、宛先の番地に住宅はなくその周辺にも左文字なる人物が定住している様子はないため、発送されたすべての書簡は「宛先不明」となり、差出人住所たる立木興信所に届いている。本資料素材は我方の工作員がこれら書簡を立木興信所の郵便受けから抜き去り、複写後ふたたび郵便受けに戻すという行為によって得られたものである。書簡の大半は大伴市の消印を押印されているため、当初ある種の特殊な暗号通信と思われたが、内容はごく普通の平文で記されており、機密に関わる文言は含まれていない。これがいかなる意図の元に作成されたものかは今もって不明ではあるが、状況を多角的・総合的に把握する一助になると判断し、本資料に加えるものである。


 本資料においては、速やかなる状況理解を促すため、上記二素材を時系列に沿って再配置した。各章頭の符号イおよびロによって、元となる資料素材を判別可能である。なお本資料の複写は、部分・全体によらずこれを禁じる。

 

                                                                                                                                                            

ロ 〇〇一

                                                                                                                                                           

ミツコへ

                                                                              

 そういえば、こうしてお前に宛てた手紙を書き始めて何年になるだろう。
 もちろんお前がこれを読んでくれることはないし、返事をもらうこともない。だが、こういう手紙もなかなかいいものだと思わないか。
 私はいま、仕事で大伴市に向かっている。お前は知らないと思うが、あの戦争が終わってから「影の首都」と呼ばれるまでに急成長した都市だ。日本がもしあの戦争に勝っていたら同じような街が大陸に造られていただろうと思わせる、整然とした近代的な計画都市。物見遊山に行くわけではないが、興味はある。
 大伴での出来事も、またこんなふうに手紙に書いて送ろうと思っているから、楽しみにしていてくれ。ただし、気の利いた絵葉書などは期待しないで欲しい。私はどうもあの絵葉書というのが苦手でね。表側の狭い面積に、宛先と文章を詰め込むというのが性に合わないんだ。絵葉書の替わりに、面白い写真でも撮れたら同封するようには心がけるよ。
では、また。

恭一郎

                                                                                                                                                             

                                                                                                                                                            

イ 〇〇一
                                                                                発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所


秘匿任務第三八九七号に関する報告(一)


任務実施要項
一.大伴市を実質支配する非公然組織およびその構成員の全容解明
二.宗教団体白鈴會の実態調査 ならびに第一項が指す組織との関連調査
三.第一項が指す組織による反体制的動向 ならびに同組織による新兵器独自開発の実態調査
付記 第三項を最重要項目とする

上記任務に本日より着手する。


まず実行地域である大伴市に列車で向かう。列車内で調査対象乙群“烏丸小夜子”を発見。
女優“鬼塚結衣”に帯同している様子である。念のため、鬼塚を調査対象丙群に追加する。

The_skull_man_01avi_000272439_2

同じく列車内にて、調査対象丙群“御子神隼人”の乗車を確認する。
御子神の調査優先度は丙群だが、調査対象甲群筆頭である“黒潮豪造”との関わりが深い。要注意とすべきであろう。なお御子神は乗車中、長時間の用便があったが、その間に外部との連絡を試みた形跡はない。降車後、駅舎内にて御子神と同行する者を発見。
調査のため、通りすがりを装い話しかける。御子神の同行者は偽造国民証を所持しており、記載上は【姓名 “間宮霧子” 性別 女 年齢 二十歳】であった。しかし外見上は十四歳から十八歳と思われる。
御子神との関係は不明である。上記“間宮霧子”の人別照会を要請する。

The_skull_man_01avi_000475475事前調査資料によると、御子神はフリー記者で「骸骨男」取材のために大伴市を訪れているとのことだが、確認のため会話の中で探りを入れる。こちらから「鬼塚を取材に来ている新聞記者であろう」という意図的に核心を外した問いを投げかけ反応を見たところ、事前調査どおりの目的で大伴に来ているものと思われる態度であった。

なおその際、陸軍少佐“石動寛治”を駅舎内で確認する。この石動の動向は事前調査資料には記されていなかったものである。要注意と見なし、調査対象丙群に加える。

The_skull_man_01avi_000444402


そののち、検問等での問題もなく、大伴市内への潜入に成功。

潜入後、調査対象甲群 大伴警察署および警察署長 への端緒を得るために、署長から直接の指示を受けて行動していると思われる 同警察署捜査一課刑事“新條剛”を尾行する。

The_skull_man_01avi_000766224継続的に観察するが、現時点において新條に特筆すべき動きはない。しかしその立ち居振る舞いを見る限り、警戒心や洞察力が高いようには思えず、きっかけさえあれば会話等による接触は容易であると思われる。以降は新條を工作対象者とし、機会をうかがいつつ早い段階での接触を試み、良質の情報源としたい。今回の報告は以上とする。


※編者註 「調査対象甲群」とは、大伴コンツェルンの長である黒潮豪造を頂点とする、大伴市を実質的に支配していたグループの構成員・構成組織を指しているものと思われる。また「調査対象乙群」は新興宗教団体白鈴會の関係者、「調査対象丙群」はそのいずれにも含まれない、比較的優先順位の低い調査対象であると思われる。これらは以降の通信文書にも度々現れるため、そのように推定可能である。また「工作対象者」という表現については、諜報戦の一般的見地に立ち、「自らの諜報活動に利用できるよう仕立て上げるべき対象者」という意味合いと取れる。なおこれは必ずしも能動的な協力者である必要はなく、自覚のないままに諜報員に情報を与えてしまう存在であってもかまわないわけである。

                                                                                                                                                                    

                                                                                                                                                             

ロ 〇〇二


ミツコへ


 今私は大伴市にいる。
 さっそく、前の手紙で約束しいていた写真を送るよ。

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編者註:この2枚の写真は、資料 ロ 〇〇二 に同封されていたものを複写したものである

                                                                                                                                                 

ここはもともと山あいの小さな村だったんだが、そこにダムを造って川を堰き止め、できた平地に街を造っていったらしい。だから周囲は山に囲まれていて、小高い場所に登るとすんなり街全体が見渡せる。二枚の写真は、同じ場所から方向を変えて撮ってみたが、想像していたより表情豊かな街だ。かたや東京と見まがうばかりのビルヂング群、右端に見えるタワーは「大伴タワー」といって、もうすぐ完成する大伴の新名所だ。かたやもう一枚の写真は住宅街のような風景。まだ空き地もいくらか残っていて、あまりごみごみしておらず住みやすそうな感じがする。
 お前と一平がもしまだ生きていれば、家族で一緒に見て回りたいと思う街だな。
 ところで仕事の過程で、面白そうな若者と出会ったよ。トップ屋の青年なんだが、私が「ブン屋さんでしょう?」と持ち上げてやると、まんざらでもない様子だったな。少し話しただけだったが、屈託のない様子でかわいげのある男だった。いっしょにくっついている若い娘さんと、楽しそうに言い争っていてね。一平がもし生きていれば、ちょうど彼くらいの年頃になっているはずか。そう思うと、ついつい手前勝手に彼への親しみを感じてしまう。よくお前に「あなたは人なつっこい性格だから」と言われたものだが、どうやらそれは当たっているようだ。しかし、この私の性格は、今の仕事には向いているらしいよ。

恭一郎

                                                                                                                                                            

イ 〇〇二
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所

秘匿任務第三八九七号継続報告(二)

大伴市内潜入の同日、日没後に調査対象丙群“御子神隼人”の滞在場所を確認する。事前調査資料に記載されている、御子神が高校卒業まで居住していた大伴製薬旧社宅に滞在する様子である。

The_skull_man_01avi_000986027大伴駅での御子神の同行者“間宮霧子”も同所に滞在する模様。なお、間宮の人別照会に関する回答は受領した。その経歴から、丙群に相当する調査対象に追加すべきと判断する。


深夜零時前後、対象者御子神が外出。ほぼ同時に大伴製薬旧社宅に隣接する建物取り壊し現場で事件発生。当方、偶然に現場付近ですべてを目撃する。
乙群の調査対象者名簿に含まれる(編者註:すなわち、白鈴會信者である)大伴市在住“臼井昭彦”が、二体の獣人と髑髏の仮面を被った男の襲撃を受けた。臼井は逃走を試みる最中に御子神と接触、その際常人離れした腕力で御子神を五間あまり(編者註:約10メートル)吹き飛ばす。


その直後臼井は、獣人の攻撃に追い詰められ、最終的には髑髏の仮面を被った男にとどめを刺され絶命。
髑髏の男と二体の獣人は、その後速やかに現場を離れた。


髑髏の仮面を被った男は、その容貌と能力から、本任務における最重要調査対象に関わっている可能性が高い。すなわち、対象甲群が開発している新兵器を装備・使用していると推測される。
以降の報告においては、対象を通俗的な呼称にならい“骸骨男”と表記する。


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なお骸骨男に付き従っているように見受けられた二体の獣人も、自動車を持ち上げる腕力、および驚異的な跳躍力を見せており、その身体能力は尋常ならざるものである。骸骨男とは異なる態様を示しているが、同様にこれらも対象甲群による兵器開発の産物であると思われる。

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これら獣人および骸骨男が乙群調査対象を襲撃していた件については、特別な因果関係が存在する可能性が濃厚のため、さらなる調査を進めた上で報告する。
ただしいずれも相当な戦闘力を有しているものと見られるため、調査は慎重に行うことにする。


なお事件後の現場で頭部と羽根部分が外れた状態のペンダントを拾得。頭部の外観は事前に受領していた 標本 ト-八“白鈴會信者のペンダント”と同一である。本報告書に同封・送付するので、分析願いたい。

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編者註:立木が現場で拾得した鈴

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編者註:立木が所属していた諜報組織が事前に入手し、立木に所持させていた 標本ト-八“白鈴會信者のペンダント 頭部”

                                                                                                                                                          

また、御子神は臼井昭彦死亡の直後に失神。救急により搬送され病院で手当を受けたのち、事件の重要参考人として大伴警察署内に留置された。


翌朝、調査対象甲群 大伴製薬秘書室長“神代正樹”が警察署に現れ、御子神の身元を引き受けた。
御子神と神代はそのまま黒潮豪造の邸に向かったようである。以上の状況から、御子神は大伴市内では黒潮豪造の後見を受けるであろうという事前予測は正しかったと言える。
今後の調査においては比較的接近・接触が容易な御子神の動向を注視することが、任務全般の遂行を助けると思われる。


上記の考察に基づき、黒潮豪造邸から出てきた御子神と間宮霧子を尾行する。
昼食をとろうとしている様子だったので、最寄りの定食屋に先回りし、条件作為(編者註:「条件作為」とは諜報戦の用語で、自然な遭遇が繰り返されるような状況を計画的に演出することを言う)による接触を試みる。


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御子神と間宮は、こちらの想定通り定食屋に入る。会話を傍聴したところ、御子神の“骸骨男”に対する取材の方向は、通俗的な都市伝説が実在するという興味のもとにあり、当然のことではあるが兵器開発との関連にはまったく考えが及んでいないと確信できた。頃合いを見て会話による接触をおこない、念のため“骸骨男”と“神楽辰男”に関する流言とを結びつけるように誘導する。これにより御子神の着眼点を最重要調査対象から遠ざけつつ、神楽親子の取材を通じて黒潮豪造の周辺に到達するよう仕向けることができれば、こちらの調査にも好影響を期待できる。


なお、臼井の死亡は新聞報道において事故死とされていた。このことから、調査対象甲群(編者註:大伴コンツェルンを中心とする大伴市の支配者グループ)がこの地域において絶大なる影響力を行使していることがうかがえる。


今回の報告は以上とする。




イ 〇〇三
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所


秘匿任務第三八九七号継続報告(三)


大伴市潜入から三日目。
新聞朝刊に鬼塚結衣に宛てられた殺人予告の記事あり。記事によると、予告状の文末には骸骨のマークが記されているらしい。これが“骸骨男”に関連するものか、あるいは単なる便乗者によるものなのかは今のところ不明である。
引き続き対象者丙群“御子神隼人”を観察するが、午前中は特筆すべき動きなし。
午後に入り、御子神は取材を開始。鬼塚結衣と白鈴會の接点を捜している様子。
同じく対象者“間宮霧子”も午後から行動を開始。こちらは鬼塚結衣にひたすら張り付いている。


両者とも放置して問題なしと判断し、こちらは独自に白鈴會の全容解明に向けた調査活動を進める。
宗教・思想団体への接近時における定石に従い、入信を匂わせることも含めた条件作為を実行し、複数の情報源を得ることに成功したので、数日後には詳細な報告を作成できるであろう。


なおこの日の夜、鬼塚結衣は付き人である“烏丸小夜子”を替え玉にしてマスコミの目をくらまし、なにものかと接触していた模様。未確認情報ではあるが、烏丸の行き先が大伴警察署の幹部連が頻繁に利用する料亭旅館であったという点から見て、接触の相手は調査対象甲群に含まれている大伴警察署長である可能性が高い。この事実は本任務に直接の関係はないが、後々の調査に際して有効な材料となる可能性があるのでここに付記しておく。


烏丸小夜子の調査も課題ではあるが、いかんせん有名女優の付き人であるため、常時芸能記者が側にいるという問題がつきまとう。これについては、他の乙群対象者で補う方向で考えざるを得ないか。


今回の報告は以上とする。



ロ 〇〇三


ミツコへ


 戦争が終わって大陸から帰ってきたら、お前も一平もおらず、それ以来私はずっと外食ばかりだ。たまには、お前の作った手料理を食べたいものだな。昨日の昼も、「みなかみ」という定食屋で済ませたんだが、そこでまたあの面白い青年と出会ったよ。先日と同じく年端のいかない若い娘さんと一緒で、にぎやかに食事をしていた。それを見ていて私は、ずっとひとりで飯を食ってきたことを無性に寂しく感じてしまってね。もしお前と一平があんなことになっていなければ、何度でも家族一緒に飯を食えたのにな。本当に、残念でならない。


恭一郎




イ 〇〇四
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所


秘匿任務第三八九七号継続報告(四)


潜入四日目。
午前中は昨日獲得した数人の情報源と再接触を試みる。接触頻度を増したことにより、相手方の警戒心はさらに緩んでいるようだ。夕刻まで複数の対象者を相手に同様の工作を反復する。
夕刻、御子神隼人と接触。情報交換と称して、先任工作員が確立した拠点C・喫茶店に誘う。

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御子神はこちらの物言いに反感を持ったようで、黒潮に裏はないと断言。そこで、標本ト-八“白鈴會信者のペンダント”を見せつつ黒潮と白鈴會の関係を教唆。一瞬だが御子神に動揺が認められたので、今回の工作はここまでとする。
御子神、去り際に「神楽辰男は生きていて、復讐をしているという噂がある」と発言。その段階で留まられては、彼の行動が当方の活動に寄与することはない。今日の工作が奏功することを期待する。


今回の報告は以上とする。




ロ 〇〇三


ミツコへ


 今日もまたあの面白い青年と一緒だったんだが、はじめてゆっくりと話をしたよ。喫茶店で、コーヒーを飲みながら。私がコーヒーを飲むなんて、お前が聞いたら意外に思うかも知れないな。だがこれも、戦争が終わって国に帰ってきてからのことだ。家にひとりでいる時間が退屈で、よく喫茶店で時間を潰していた。そのうちに、コーヒーの味も多少はわかるようになってきた、というわけだ。私に言わせれば、ブレンドなんていうものを飲むのは青二才だ。いや、これは言い過ぎかも知れない。しかしやはりもったいないと私は思う。コーヒー豆には個性があって、例えばブルーマウンテンは香りがすばらしく、口当たりは軽やかだ。対してキリマンジャロはコクが強い。これが、飲み慣れるとクセになる。さらにキリマンは深煎りと浅煎りでがらりと表情を変える。ジャワやトラジャも個性が強く、捨てがたい。お前がコーヒーを飲み始めるのなら、まずはモカやコロンビアから試してみるとよいと思う。
 そういえば結婚前からお前には「あなたはよく、変なものに凝るわね」と言われてたな。まったくその通りだよ。しかし、お前と一緒にコーヒーを飲めないというのは、なんとも悔しい話じゃあないか。私もいずれそちらにいくから、その時は極上のコーヒーをご馳走しよう。

恭一郎



イ 〇〇五
発 代理人二十五号
宛 東部方面連絡中継所


秘匿任務第三八九七号継続報告(五)


潜入四日目 追加報告。
前回報告を作成した直後、事件発生。既に使用されておらず取り壊しが予定され廃墟化していた元神楽劇場建物内において、調査対象乙群“烏丸小夜子”および調査対象丙群“鬼塚結衣”が殺害された。


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事件発生の瞬間に居合わせることはできなかったが、事後の調査によっていくつかの情報を得ることができた。


発生の瞬間近くを通ったアマチュア写真家 瀬川亮二が偶然撮影した写真を警察当局より先に見ることができたので、その複写を同送する。なおこの写真のネガフィルムおよびプリントは翌日警察当局に没収され、瀬川の手元には何も残されていない。


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至近距離からの撮影ではないため判然としない部分もあるが、写真の右側に見える黒い人物は、継続報告(二)に記した通称「骸骨男」と容貌が酷似しており、同一人物と思われる。左上の白い獣人に関しては、一切が不明である。なお撮影者によると「シャッターを切った後、舞い落ちる大量の白い羽根を見た。言い知れぬ美しさに身体がすくみ、その瞬間を撮り逃してしまった」とのこと。しかし、現場付近に羽根または羽毛の遺留は確認されていない。

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編者註:資料 イ 〇〇五 に添付されていた写真複写



事件後の神楽劇場建物内に侵入したところ、天井から屋根に貫通する直径六尺(編者註:約1メートル80センチ)程度の穴が開いていた。建材破断面の状態は新しく、これは以前からあった穴ではない。すなわち、事件発生と同時に行われた破壊であると断定できる。他にも床の割れ・二階席扉の脱落等各所に新しい破壊痕が見られ、これにより建物内で大規模な戦闘があったことが推測できる。ただし破壊の状態から見て、加えられた力はおよそ通常の人間が出し得るものとは思えず、継続報告(二)に記した獣人、あるいはそれと同等の力を持つものが戦った痕跡であると思われる。


アマチュア写真家瀬川が撮影した白い獣人と、烏丸小夜子または鬼塚結衣との関連はいまのところ不明である。しかし、烏丸の死体発見現場が劇場の屋上だったことを鑑みると、白い獣人は鬼塚結衣ではなく烏丸小夜子と関連づけて考えるべきであろう。


なお現場でまたしても頭部と羽根部分が分かれた状態のペンダントを拾得。
諜報開始から獣人の出現は二例に過ぎないが、いずれの現場にも壊れた状態のペンダントが見られた。このペンダントは調査対象乙群(編者註:白鈴會信者)のほとんどが常時身につけているものである。以降の調査にあたってはこの点、すなわち白鈴會と獣人の関係を、十分に考慮して進める必要があると思われる。


今回の報告は以上とする。

coming soon

 

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